UAH~彼は青年となった~
連続投稿です。プロローグからどうぞ。
人の1年に対する時間感覚は年齢が上がれば上がるほど短くなるという話を昔聞いたことがある。
これは例えば同じ1年でも50歳の1年はそれまでの人生の50分の1なのに対し、10歳の1年はそれまでの人生の僅か10分の1でしかないというような話で、要は年を取っていればいるほど個人の主観においての全長は長くなり、1年の存在感が希薄になっていくということらしい。
つまり何が言いたいのかというと、過去2回分の人生の記憶を引き継ぎ、主観では1000年以上生きているオレにとって1年ってのは短いなんてもんじゃない。
いや、より正確に言うなら今世における今日までの16年間はまさにあっという間だった、と言うやつだ。
確かに"管理者"の頼みを聞く形で転生した以上すでにいろいろやってはいるが、正直言って特筆するほどの何かが起きたわけではなかった。世界を崩壊に導くような、文字通り世界のガンとなっているような人間やら組織やらは既にそれなりの数潰してきているが、ぶっちゃけ相手にならない、もとい話にすらならない様なしょうもない連中ばかりだった。
さらに言うなら未だ役目を果たしていない人間は不用意に消せない以上連中はまた時間をおいて黒光りのGの如く湧き出てくるので、もはやイタチゴッコ状態と言っても過言ではない。
今日からは晴れてピカピカの高校1年生な訳だが、実際のところやる気は限りなく0に近い。と言うか0だ(断定)。
んじゃなんでわざわざ高校に来たのかっていうと、それには少しこの世界、今世の世界について振り返らなきゃならない。
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今世の世界は前回のファンタジー世界とは異なり、どちらかと言えば初めの生の世界、地球に似ている。ただし地球とは決定的に違う点がいくつかある。
まず単純に科学がこちらの方が発達している。太陽系外にこそ出れていないものの、逆に言うと太陽系内は完全に人類の支配下だ。惑星内外の環境は似たような文明が発達していることもあってか似通った点も多い。
次に全員ではないものの、その体内に"オルディア"と呼ばれる不可視のエネルギーを宿している人類が居るということ。この点は地球よりも前世よりかもしれない。前世では個人差はあれど人類は皆その体内に魔力を保持していた。この魔力を体外に任意の形に変換しながら放出することで魔法を行使できていたわけだ。
この世界の人間(人間以外の種族が居ないのでこれで通す)は魔力こそ保持していないもののその体内には"波動"とでもいうべきエネルギーを保持している。これは魔力に個人の色のようなものがあったように、個人によって波形が存在し同一のものをもつ人物は存在しない。双子であっても似通ってはいるものの、やはり多少の違いはあるようだった。
最後に、今言ったオルディアを用いることで、この世界の人間は"Unique ability"と呼ばれる超能力を行使する。もっとも魔法のように何でもできるわけではなく、1人につき1つの能力しか行使できず、さらに能力の使用には科学の粋を集めて作られたデバイスが必要だ。ちょうど魔法士見習いが杖を使うのと似ている。
ただ一口にUAと言ってもその中身は様々だ。例えば同じ炎を扱うUAH(UA保持者の略称)同士であっても、片方は破壊に特化しているのに対して、もう片方は再生の炎とでもいうべきものを行使したりする。
UAの面白いところはこのようにただ物理現象を操っているのではなく、それこそ魔法のような現象を引き起こす場合が多々あるというところにある。
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さて、話を始めに戻すと、オレが高校に進学したのは残念なことに中学の教師陣から推薦を受けてしまったから、と言うのが主な原因である。
UAの存在するこの世界では当然授業にUA関連のモノが含まれている。基礎的な道徳観念から実践的なトレーニングまで、中学の3年間だけでも実技・座学共に随分といろいろやらされたものだ。
それはともかく、高校以降はUAHは一般人とは違う専用の学校に進学することとなるのだが、この時重要になってくるのがUA関連の授業の成績だ。
基本的にUAHの強さは先天的に保有するオルディアの量と経験によって決まる。オルディアの保有量が多ければそれだけ大規模なUAを行使できるし、いかなる分野においても経験に勝るものはない。
オレは幸いにしてUAHとして生を受けたが、保有オルディア量自体は平均をやや下回る程度と大したことはなかった。
本来ならこの時点でオレのUAHとしてのレベルはたかが知れるところだが、こちとら伊達に1000年生きているわけではない。オルディアが魔力とは別物とはいえ、体内に宿り、それを操って事象を起こすのに使用するという点で大差はない。
つまるところ1000年におよぶ魔法騎士として培ってきた魔力操作の感覚がもろそのままに生かすことが出来たのだ。これによってオレのオルディアの運用効率は抜群と言っても過言ではなく、極めて少量のオルディアで結構な規模のUAを行使することに成功したのだ。
だがこれがいけなかった。これを最初の実技の授業で実験がてらやってしまったものだから教師には神がかった制御能力だといわれ、引くタイミングを完全に逸した結果、先天性の力に頼らない極めて優秀な生徒扱いを受ける羽目となり、あれよあれよと言う間に推薦され高校進学を承諾せざるを得なくなったのだ。
推薦をとるならともかく、受けておいて辞退するのはこれ以上余計な注目を浴びたくないという点から諦めざるを得なかった。
「はぁ……」
思わず溜息がでるのを止められない。この世界へは別に学生をやるために来たわけではないし、むしろ本来の目的のことを考えれば学校など行くだけ無駄だ。
さらに言うなら、オレのような例外を除き保有オルディア量の多さ=強さ=力関係の優劣となるこの世界において、人生経験の少ない学生達では保有オルディア量が多いだけで自身が1番だと思い込み、無駄に高いプライドをもってオレのような例外連中を叩くことに腐心するお馬鹿さん達が今後突っかかってくる可能性は大いにある。今更大人げなく怒鳴り散らしたりはしないが普通にうっとおしいので嫌になる。
行く意味もなく、揚句行けば間違いなく疲れるとわかっている環境に行かざるを得ない現状に溜息の1つも付きたくなるというものだ。
ましてや今日から通うこの高校は世界でも一流校と名高いペテルディム学園である。世界中から優秀な坊ちゃん嬢ちゃんが莫大な資金を支払って入学する場所だ。それだけでも小市民のオレは気疲れを覚えるというのに……。(ちなみにオレは特待生という枠での入学なので学費その他もろもろは免除である)
「はぁぁぁ~……」
溜息を止められないオレであった。
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