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至真の魔法騎士  作者: 電気スタンド
プロローグ
2/4

"管理者"~彼は旅立つ~

連続投稿です。プロローグからどうぞ。

 老人は自身が世界に溶けていく心地よい感覚に浸っていた。じわ~っと包まれるように、それでいて己の輪郭が徐々にぼやけて曖昧になってゆくその感覚は筆舌に尽くしがたいものであった。


 だがまもなくして彼は違和感を覚える。それは戸惑いと言ってもよい。


 本来なら己の輪郭が消えてゆくのに次いで、意識も世界に溶けてゆくはずのところを、彼は輪郭こそ溶けたもののそこで変化が、自身が世界へと帰るプロセスが止まっていた。

 彼は困惑した。なぜまだ自分は自我を持って個を維持しているのかと。なぜ世界に帰ることができないのかと。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 なにがどうなっているんだ……?どうして自我が(ほど)けない……?


 そんなオレの困惑をよそに一向に変化の兆しを見せない状況は唐突に、暖かな光の中にあって急に強い光を放つ者によって変化を余儀なくされた。

 身体はとうに世界へと帰った今のオレには当然視覚情報なんてない。つまり今感じているこの光は物理的な光ではなく、魂の輝きそのものということになる。


 "ソレ"は気づけばオレのすぐ近くにいた。


 お前さんはいったい何だ?


 (初めまして至りし者よ。私は、"管理者"と言えば、伝わりますか?)


 あぁ……なるほど。どうりで魂の輝きが強いわけだ。


 "管理者"とは即ち世界を管理する者。数えきれない程にたくさんある世界その1つ1つ全てに"管理者"は存在する。"管理者"は世界がその寿命をまっとうできるように適宜調整を行っており、不用意に世界が死んでしまわないようにするのが役目だ。

 本来遭遇することはまずない。また性別もなく、それどころか決まった形すらない。下界の人間はしばしばこの"管理者"を神と勘違いする。まぁ見る者によって姿は違って見えるし、ある種人としての到達点に至った者ならばその輝きに神々しさを感じるのも無理はない。

 ま、オレは人としてと言う枠を超えた所で世界の真理に至っているので"管理者"を神と間違えることはないし、そもそも人々が神と呼ぶものの真実を知っているので勘違いの仕様がない。似ても似つかないし。


 それで?"管理者"がこんな老いぼれにいったいなんの用だい?


 (世界の真実に至りし者よ。どうか力を貸してほしい。あの世界を……助けて……)


 ん……?もしかして、お前さんさっきまでオレが居た世界の"管理者"ではない?


 "管理者"が肯定を示す意思を発した。もしここが下界、即ち3次元の世界ならばきっと頷く姿を見ることができただろうな。


 なぜオレにそれを持ちかけるんだ?


 (もはや私だけでは手が回らない。あの世界()は悲鳴を上げている。全てを知り、それでいて下界で動ける者が必要)


 言うまでもなく、4次元以上の、即ち精神や魂の比重が多くなった次元からの干渉と比べて、下界での世界への干渉は効果は表れるのが圧倒的にはやい。呪殺を試みるより直に殴り倒した方が手っ取り早いのと同じ理屈だ。

 "管理者"は世界のために存在している。そして、どこの世界でもしばしば人類が世界への害悪となることがある。"管理者"の目的は世界を自然消滅するその日まで無事に見守ること。人類が邪魔になれば消さなくてはならない。

 しかし世界に生まれたものには皆全て生まれ落ちた理由がある。必ず役割が存在する。人類が邪魔だからと言ってまとめて消し去ってはそれこそ世界を崩壊させかねない。

 この"管理者"は忠実に自身の責務を果たそうとしているだけなのだ。そしてそのためにオレに助力を求めた。


 まったく、オレもまだまだだな。人類と違ってただそれの為だけに存在する"管理者"に裏などあるはずもないのに。一瞬でも疑いを持ってしまった。オレを何かに利用しようとしているのではないかってな。国の狸どもに毒されたかな。


 (至りし者よ。力を貸してほしい……)


 おっと、一人思考の海に沈みかけてたな。オレの悪い癖だ。


 いいぞ"管理者"よ。こんな老いぼれ爺の力でよけりゃ、いくらでも貸すよ。


 (感謝します、至りし者よ。よろしく頼みます)


 "管理者"は深い感謝の意思を発した後気づけばそこから消えていた。そしてそれと同時にオレは深く暗い穴にまるで吸い込まれていくかのような感覚に包まれる。さながらゆっくりと落ちてゆくような感覚はしかし恐怖を伴うものではない。あるのは心地よい微かな緊張感だけだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 耳が痛くなるような静けさから徐々に徐々に音が戻ってくる感覚。深い深い眠りから目覚める感覚。ゆっくり落ちてゆく感覚から気づけば今度は水面に浮かび上がる心地。


 オレはこの感覚をよく知っている。いや、オレでなくとも誰でも知ってる感覚。


 そう、目覚めの感覚だ。


 初めに聞こえてきたのは水のような音。次いでトクトクトクと一定のリズムを休むことなく刻む独特の音。最後に水の向こうから聞こえてくる人のものと思しき声。


 無事に転生できたみたいだな。ここは十中八九母体の中だろう。母の心臓の音が心地よい。さてさて、今が妊娠何か月かは分からないが、耳が聞こえているということは6か月は過ぎているのだろう。生まれるまでまだ数か月ある。この世界がどういった世界なのか分からない以上、1~2歳まではおとなしくしていた方がいいな。

 出る杭は打たれるという言葉もあるし、しばらくは様子見だ。と、なれば、しばらくはまったり赤ん坊ライフを楽しむとするか……。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


誤字・脱字や感想などありましたら是非お願いします。

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