プロローグ~今日までの彼~
お久しぶりの方お久しぶりです。初めての方こんにちは。
久々の投稿。まさかの新作。
続き?え?なんのk……あ!石投げないで!
魔物が居て、ドラゴンが居て、魔法があって、剣が主流。そんな世界の北の果てにある"氷結の森""と名付けられた樹氷に囲まれ俗世から切り離された森の最奥に、小さなログハウスが1件建っていた。
ログハウスの回りだけはこの氷に閉ざされた森においてなぜか一定の暖かさを保っている。そしてそんな不可思議なログハウスの中には、ベッドに身を任せ、静かに目をつむって最期の時を穏やかに待つ1人の老人の姿があった。
人は彼を"至真の賢者"と呼んだ。
それは"世の真の理に至りし偉大なる賢者"という意味で敬意を持って付けられた老人の2つ名であった。
老人は己の生がもう残りわずかであることを知っていた。そして己の今日に至るまでのおよそ1000年にも及ぶ人生を静かに懐古する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
老人が生を受けたのはここではない別の世界。地球は日本という名前の極東の島国に老人はごく普通の少年として生まれ落ちた。特にこれと言って何か特別な問題を起こすことも、巻き込まれることもなく少年は平穏無事な日々を過ごし、やがて青年へと成長する。
事は老人が大学生と呼ばれる学生身分であった時に起きた。大学生となって迎える2度目の夏季の長期休校、すなわち夏休みにアルバイトで海水浴場の監視員をしていた青年は、沖の方で溺れていると思しき観光客を見つける。彼は自らの職務内容に従って救助に向かうも、どういうわけか客が溺れている近辺には本来ないはずの海流が発生しており、結果として青年は客の救助成功と引き換えにその短い一生を終える。
次に青年が目覚めたとき、彼は驚いたことに赤子となってベビーベッドと思しき場所に寝かされていた。青年は大いに混乱し、また取り乱した。しかし1週間2週間と時間が経つにつれて現実を受け入れざるを得なくなった。
ある種諦めの境地に至った青年は発想を変え、理屈は不明ながらも前世の記憶を保持していたことを幸運に思いつつ、新たな人生を楽しむことにした。周囲に目を向ける余裕を精神的に得た青年はそこで超ド級のカルチャーショックを受けることとなる。
今世のこの世界には、魔法が満ち溢れていた。
青年は大きな衝撃と共に自らの内より湧き上がる抑えきれない興奮を感じていた。
もっと見たい。もっと知りたい。使ってみたい。自在に操り我が物としたい。
それからの青年は自身が少なくとも見た目は幼児であることも忘れ、魔法の勉強に没頭した。幸いにしてそんな青年を周囲の人間は気味悪がることはなく、むしろ神童として祭り上げた。青年の生まれた家が有名な魔法士(魔法騎士の略称)の家系であったのも大きかった。
いくつもの折り重なった偶然に青年は感謝しつつより一層魔法の勉学に励んだ。
やがて成長し魔法学校を経て国に宮廷魔法士として勤めることになった青年は魔法を学ぶ側から研究する側へとその立場を変えてゆく。既存の魔法体系をさらに煮詰め様々な工夫を凝らすことによって、いままである程度使用者を選んでいた魔法と言う能力を魔術という技術に変換することに成功する。魔法が使用者によってある程度効果にバラつきが出るのに対し、魔術は魔法陣や杖を必要とする代わりに魔法の才能に乏しい者でも必ず一定の効果を得られるようになっていた。
これにより民間に一気に普及した魔術はさながら前世の地球における産業革命とでも言うべき現象が発生し、過去の歴史からみると極めて短い期間で文明のレベルは一気に進歩した。
青年はそれだけでは飽きたらず、魔術にさらに手を加え無機物にそれ単体で魔術を発動させる研究を行い、結果出来上がったのが魔導具と呼ばれるものだ。この魔導具の発明によって産業革命はさらに進み、200年が経過したころには中世のそれであった文明のレベルは、青年基準で現代まであと1歩というところまで来ていた。
だが人の世とは儘ならぬで、ついにその急成長を快く思わない周辺国家により青年のいた国は戦争状態へと突入する。この世界の人間の寿命は保有する魔力量に左右されており、この時点で転生から200年以上の時を過ごしていた青年は、しかし未だに若々しい姿を保っていた。
他国との戦争状態に入った青年の国ではあったが、だてに産業革命を経たわけではなく、僅か半年で5対1となっていた戦争に勝利を収めることとなる。無人の魔導兵器による戦闘を主だった青年の国の被害は極めて軽微であり、反対に周辺国家は未だ魔導具の使い方すらろくに把握できていなかったこともあり、人的物的被害は多大なものとなった。周辺国家は完全に戦力を失ったのだ。
その後青年の国が周辺国家の復興に物資面資金面共に協力を惜しまなかったことで、各国の大衆を味方につけ、結果として周辺国家は実質青年の国に服従することとなる。
しかしこの戦争を経て青年はある疑問を持った。それは自分自身について。
確かに保有魔力量によって寿命が左右されるこの世界において200年生きている者は青年以外にもいる。しかし彼らはみな一様にその外見は高齢の老人そのものだ。間違っても青年のように20代前半の容姿ではない。初めは家柄かとも思っていた青年であったが、今回の戦争を通して研究ずくしであった生活にいったんの区切りがつき、自身を振り返る機会を得たことで自身の今までの見解は間違っていることに気づいた。
一たびそうと分かると青年は今度は自身について研究を始める。なぜ転生したのか?前世の記憶は確かにあるが、ならばそれはどこに記憶されているのか?(少なくとも脳みそではあるまい)なぜ魔力量が他者と比べて多いのか?なぜ寿命は魔力量に左右されるのか?
考え始めたら一気に疑問が湧き出てきて青年は必死に研究した。やがて青年は人間には"魂"と呼ぶべきものが実在することを突き止める。それを確認したことでそこから転生や寿命の秘密、記憶の謎に迫ろうとするも、なかなかどうして"魂"の解析は進まなかった。
青年は"魂"を調べ上げるために、調べる方法を確立しようと様々な魔法を開発する。その過程で数えきれないほどの副産物が出来る一方で、目的にはなかなか到達できなかったが、それでも青年は諦めずにコツコツと研究を続けた。
青年はやがて気づく。自身の研究テーマの正体は世界の真理そのものであると。
実に700年の時を経て青年はついにすべての答えを見つける。同時に青年は世界の、この世の真の理へと至った。
この時青年は既に900歳を超えており、さすがの青年もその容姿は老人のそれとなっていた。
何代もの世代交代を繰り返し徐々に人類全体の平均保有魔力量が下がり寿命が短くなってきていたその頃において、老人は生ける伝説として人々からは一種の神のように扱われていた。神という存在の真実を知っていた老人にとってそれは笑い話にしかならなかった。老人が"至真の魔法騎士"と呼ばれるようになったのもこのころからだ。
しかし例え真実がどうで、老人がどう思っていようとも、いつの時代どこの世界でも宗教の力と言うものは強く、老人は950歳を超えたあたりでこれ以上俗世に関わるのはよそうと思うようになった。この時点で自身が1000歳ちょうどで死ぬことを知っていた老人は、やがて宗教が争いの種になること危惧し、ちょうどいい頃合いだと、彼を崇拝する人々から身を隠すようにして俗世間を離れた。
魔術と魔導によって既に地球よりもよほどSFチックと化していた世界であったが、それでも北の果ての"氷結の森"へは足を踏み入れることが出来なかった。なぜならその森の樹氷にはドラゴンの鱗などと同じように魔力を分解吸収する特性があったのだ。故にいくらSFのような世界と化していても、根っこが魔力を用いるファンタジー世界である以上これを突破することはできなかったのだ。魔術・魔導を軸に発展したがゆえに科学が発達していなかったのも原因の1つだ。
その膨大な知識から樹氷の影響を受けずに魔法を行使できた老人は森の最奥、間違っても誰も来ることの出来ないその場所に小さなログハウスを1件建て、自らの生み出した魔法・魔術・魔導を用いて残りの50年弱を1人静かに余生として過ごした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そっと老人は目を開けた。時刻は午後11時55分。老人の持ち込んだ1日24時間の概念はこの世界にいまも根付いている。
あと5分で老人は1000歳を迎える。そう、まもなく老人の4ケタの大台に乗る誕生日なのだ。
そして同時に、"至真の魔法騎士"の命日となる日でもある。
老人は知っている。どんなに魔力量が多くとも、人の体では1000歳までは持たないことを。1000回目の誕生日を迎えるその時にこの体は消えて世界に帰ることを。"魂"はそれが単体で存在するべき次元へと登ってゆくことを。
老人は再び時計に目をやる。時刻は午後11時59分30秒。
静かに目を閉じた老人は深く息を吸いゆっくりと息を吐く。そして満足そうにつぶやいた。
「本当に、楽しい人生だった……」
この日、この世界の発展に多大な影響を及ぼしその歴史に永遠に名を刻んだ一人の偉大な魔法騎士がその長い人生に幕を下ろした。
ログハウスには一切の人影が無くなっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
え~っと、投稿済みの2つはどうなってんだゴルァ!って方は活動報告のほうをこれから書くので、そちらをご参照ください。
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