旅先ではテンションがとても上がる
どうやら腰に下げたブッシュナイフは隠す必要が無いらしい。
まあこれは最初にエリルらに会った時から推測していたことだが、町をゆく人々の半分ほどがナイフやら長剣で武装しているのには素直に驚いた。
そして今勇斗は首都にいるわけで、この簡易武装が世界のスタンダートなのだろう。
「ここらへんで傷害の事件とか起きないんですか? 自分の村ではみんな武装なんてしていなかったので」
きちんと整備された街道を歩く。
結局あの森を抜けて平原を歩くこと二時間少々で首都とやらに到着できた。
勇斗の眼前にはレンガで作られたような建造物が連立していて、あまり文明性は感じられない。
「いえ。事件なんかはあまり起きませんよ。警備隊もいますしね」
「それは安心です」
電灯は見受けられない。なのでこの世界の光と言えば太陽光と火の二択になるだろう。
正直言ってがっかりした。
虚空に浮かぶディスプレイのようなハイテクな機器があるとは思わなかったが、それならば代わりとしてオカルト的物体があっても良いと思った。
空飛ぶ絨毯。念じただけで動くペン。他にも想像は膨らんだ。が、無いならそれは仕方あるまい。
「で? 今はどこに向かってるんですか?」
一応道はかなり大きめに作られているので馬車でも問題無く走らせることは出来ていた。
「ともかくお屋敷ですね。……たぶん皆さん血眼になっていると思います」
「はは」
ここで笑う以外にアクションの取り方があるのなら学んでおきたかった。
知らないものは知らないので乾いたアクションになってしまった。
「にしてもエリルさんの性格は極端ですね。正直言って協調性がないでしょう?」
馬車の隣をキープしながら話を続ける。お屋敷とやらに着くまでは続くだろう。
「ええ、そうですね。一人だと割合行動的なんですけど、どうやら人の目が嫌いなようで」
二人して馬車の外装を見つめる。
エリルは首都に入る直前で中に引っ込んでしまったのだった。
顔を真っ赤にさせて「もうダメ」とかなんとか言って外界とのコンタクトを遮断した。
「学園に入って人見知りが直ることを使用人一同で願っているところです」
「……」
勇斗もその使用人一同に含まれているのだろうか?
しかも護衛なんていう一番近くにいる使用人となると、願うだけでなく行動を起こさなければならないのかも知れない。
就職先を早まったか。やはり”ほにゃららをするだけの簡単なお仕事です”には注意しなければいけなかったらしい。
「ところでユウトさんはずっとその格好でいるつもりなんですか?」
「あ、いえいえ」
言われてから自分の服装を改めて観察し直す。
明らかに周りから浮いている。
一人色が濃い。野戦タイプでなく都市型迷彩にすれば良かったなんてことも考えた。
それに色々装備を携行しているのでごつごつしている。
が、これは居住区が決まれば置いていくことが出来るので今は我慢するしかない。
「郷に入っては郷に従えですから。もしお給金なんてものが入ったら買い換えます」
勇斗とて目立つことが好きなわけでもない。
それに今度の目的を加味するならば、目立たない方が何かと都合が良いはずだ。
なので服は現地に合わせる気満々だった。
バッグの中には一応小さな金の延べ棒が入っているのだが、お給金が貰えるらしいのでそいつの出番は無いだろう。
「自分もあまり目立つのは好きじゃないですからね」
「止まれそこの怪しい奴!」
勇斗の些細な願いは口にした途端に全力で否定された。
これは足を止めざるを得ない。
スーナの馬車も慌てて急停止した。
「……」
反射的にM9のグリップに手が伸び、セーフティーも解除した。
これでひとまず臨戦態勢だ。
M9のセーフティーを外すと言うことは、剣を持った男ら十人に囲まれていようと突破できる、ということと同義である。
ここで戦略の組み合ってが行われた。
目の前の二人ほどを弾いて包囲網を脱出。
相手の得物も銃ならばしゃがんだかも知れないが相手の得物は剣という設定である。
ならばともかく脱出が優先される。剣は銃と違って同士討ちの確率が低い。
そして包囲から脱出した後はM9で各個撃破。装弾数の都合で二点発射がベター。
さらに言うなら致命傷を与えないよう足と腕に一発ずつが理想だ。
最後に残った一人は何とか銃を使わずにナイフでねじ伏せて襲撃の目的を聞き出すのが良い。それが無理そうならば9㎜を二発ほど撃ち込むことにする。
これで何とかなる。戦略の組み立ては完璧。
つまりだ。
「……」
今目の前にいる血眼の男共十人を地に這わせることは、可能ということになる。
すみませんかなり更新遅れました。
他の作品をちょろっと書いてたんです。
今度からは、ほどほどに書いていきます。
それではまた。