子の性格は親によって決定する
「そこの男ら、ちょっと待った!」
木から姿を現し、そう大きく宣言をする。
が、お嬢様方はもちろん盗賊も勇斗には気付かなかった。
「……」
それもそのはず。
今勇斗が立っているのは例の現場から約100メートルほど離れた地点だ。
森の中であるからして集中していないと目視できるものではない。
そして掛け声も届かなかったと見える。
冷静な状態なら声も聞こえただろうが、相手方は必死に仕事をしている場面なので気付かなくたって非はない。
女の子は泣いているので視界真っ暗だろうし、めがねの女性は泣いてる女の子をなだめるので必死だ。
盗賊は今後の展開を嬉しそうに話し合っている。
以上の要因から、勇斗の登場は流されてしまったわけだ。
「……まあ、近づけばいいか」
軽く小走りになって失敗の要因の解決に努める。
そうして六秒ほど走ったところで、とうとう勇斗に気付く者がいた。
意外なことに、泣いている女の子だった。
体の向きが勇斗に向いていたのが幸いしたのかも知れない。
「あっ!」
「お。気付いた」
伴って大きな声も出した。
そうしてから、一層音量を増して泣き始めた。
その声により、他の三人も勇斗に気付くことになった。
奇襲を掛けるつもりはなかったので別に問題は無い。
「やい、お前ら。一応聞くけど何してるんだ」
四人全員から怪しげな視線を頂戴しながらも質問を投げかけた。
すると親分からこんな返事が返ってきた。
「あん? お前何者だ? へんちくりんな格好しやがってよ」
親分は長剣を肩に乗せながら勇斗の姿の観察に努めた。
「ああ、そっか」
そう言われて自分の服装を再確認する。
紛うことないアーミースタイル。
本格的な迷彩服に機能的なリュック。スマートだが黒レンズの異彩を放つゴーグル。
手にはM9。太ももにもは9㎜拳銃。
一般人が見たらへんちくりんな格好とではなく”兵士”と評しただろう。
だがそこにいるのは一般人は一般人でも、異世界人だ。
「まあ旅の者だ」
嘘では無い。ただし股に掛けているのは世界だが。
「そうか。で? その旅人さんが俺らになんのよ」
「助けて! お願い!」
親分の台詞を遮ってめがねの女性がそう叫んだ。
言葉には出せなかったようだが女の子もそう思っているに違いない。
いや、泣き声がすでにエマージェーシーなのかも知れない。
「まあお嬢さん方は安心してください。そのつもりでこっちに来たので」
「おいおい坊主。それは本気か?」
親分と子分が声を大にして笑った。
本気と受け取っていないようである。まあ真治は見た目かなり若いし戦闘慣れしていないと思っているのだろう。
「見たところ剣も持ってねえようだし」
子分が口を挟む。そして自分の剣を見せびらかしてきた。
「もしかしてその手に持ってる物で戦うとか言うんじゃねえだろうな」
手に持っている物と言えば紛れもなくM9のこと。
通例ならば”そうだ”と返すのだろうが、ここは少し待て。
ここはこの世界の人間のスペックを知っておきたいところ。
生身で対処出来なそうならば迷い無く9㎜をぶっ放すが、とりあえず様子見だ。
「違う。俺だって得物は持ってる」
M9から手を離すがスリングで掛かっているので地面に落ちることはない。
が、その状態では戦いにくいのでM9は一旦地面に置くことにした。
一応マガジンは抜き、セーフティーも掛けておく。
薬室に一発残っているのだがそれを取るのはめんどくさい。
「これな」
代わりに手に取ったのは腰裏に下げているナイフだ。
バッグの中にフォールディングナイフがいくつかと、体のあちこちにファイティングナイフが隠されているが、こういったときにはブッシュナイフだ。
ブッシュナイフはナイフの中でも大型なので刃渡り35㎝ほどもある。
枝や草を刈ったり、こうして白兵戦にも使える。
先ほど木に目印代わりの傷を付けていたのはこれだ。
「……ほう」
一応本職さんのようで、山賊二人の目の色が変わった。
やっと勇斗を敵視し始めたようだ。
「そんな物騒な物だされちゃあしょうがねえ」
親分が剣を構える。子分も追随して剣を構える。
「悪いな坊主。てめえにも、金になって貰うぜ!」
先制を仕掛けてきたのは親分。
普通にこっちに向かってきて普通に斬りかかってくる。
長剣を大きく縦に振り下ろすだけの単調な攻撃。
「……」
念のために少し距離を置いて避けておいた。
その気になれば剣が振り下ろされる場所すれすれのところで避けるという達人技も出来るのだが、やっぱり念のためだ。
実は親分がものすごい剣の達人であり、剣の軌道をぎりぎりでずらしてくるとか、科学ならざるものの技術で攻撃範囲が広がるだとかそういったことを警戒しての行動だった。
が、それは徒労だった。
「なっ!」
親分は剣が地面に着くまで振り下ろしたあと、いそいそと後退した。
「……だめだ」
ぬるすぎる。
初撃で剣を最後まで振り切るなんて考えられないし、ステップの取り方もおかしい。
振り下ろす瞬間なんかには目を瞑っていたし心持ちも甘い。
「……」
この世界も地球も人間も、基本スペックはほぼ同等のようだ。
この盗賊らのおかげで色々な事がわかる。
主力武器は剣及びそれに類似した原始的なもの。
なぜ銃がないのかという理由は、隣でお金持ちのお嬢さん方が震えているからだ。
これではいまいち理解できないかも知れないが、それでも勇斗は自分の考えに自信を持った。
この世界は盗賊なんかが道に現れる半ば世紀末である。
そんな世紀末の道をか弱いお嬢様らが歩くなら何らかの防衛対策をするはずである。
めがねを掛けた女性は戦う意思だけはあったようなので、武装できるならしていたはず。
加えてお金持ちそうなので最新鋭の武器を持てるはずなのだ。
レーザーがあればレーザーを。機関銃があれば機関銃を。アサルトライフルがあればアサルトライフルを。拳銃があれば拳銃を。
そんな近代的な武器があれば、今ここで泣きを見なければいけないのは盗賊らだ。
銃さえあれば達人の剣士とだって五分五分以上に渡り合える。
結果的に女性らは隣で震えているので、銃は無い、という結論に行き着いたのだった。
以上の長ったらしい理屈的な理由を剣を避けながら考えた。
「なかなかやるじゃねえか坊主。だが、俺ら二人のコンビネーションに勝てるかな?」
親分はそう勝ち誇って言うと子分にこう叫んだ。
「おい! お前は右から! 俺は左から行く!」
「了解です!」
馬鹿だ。もしかしたら知能指数は地球の人間の方が良いかもしれない。
作戦内容を敵におおっぴらにばらしてどうする。
一応命を賭けて戦っているのだからそれくらいの事配慮しても良いだろうよ。
地球だと戦争ではもちろん、平和的なスポーツにだってサインを使ったり作戦名を付けているとに言うのに。
「……もういいや」
ブッシュナイフは左手に持ち替え、右手で9㎜拳銃を抜く。
そして、有無を言わさず発砲した。
右に一発、左に一発。合計二発。
「うごっ!」
目標に着弾を確認。ズレは寸分もない。
「な、何だ今のは!」
親分と子分はトカゲのように素早く勇斗から離れた。
まあ、これからわかるように盗賊らは生きて歩けている。
つまり、体には撃たなかった。
手に持つ長剣を狙って撃ったのだ。
剣が折れてそのまま直進してしまい体に着弾したら仕方無いと考えたが、どうやら剣の強度はそれなりのようで剣を弾いたのと同時に弾の軌道も変わったので体には当たらなかった。
自分も心持ちが甘いかな? なんて思いながらこう話す。
「武器が無い状態で俺とやるか?」
銃口を親分に向ける。
「うっ!」
そして、やっと9㎜拳銃は恐怖の化身となった。
耳に残響する鼓膜を破るような射撃音。
知らぬ間に自分の得物が弾かれていて手にはじわじわと走る鈍いしびれ。
周囲に充満する嗅ぎ慣れない火薬の匂いと、轟音の回数分だけ落ちている二つの薬莢。
十分だった。
「づ、づらかれ! こいつはやばい!」
「へ、へい!」
盗賊らは剣も拾わないでその辺の木々の間に消えていった。
「じゃあなー」
追いかけてあの屈強なベトナム帰りの兵士を演じるのも良いが今はやることがある。
隣で震える女の子と女性を安心させて、情報を聞き出すという重大な任務が。
もし、もしこの更新を待っているなんている方がいましたら、申し訳ありません。
遅くなってしまいました。
それでも読んでくれた人、ありがとうございます。
それではまたいつか。