女ゴコロ Ⅱ (4)
救急車を呼んで病院に付き添って来た。お腹を押さえていたあの女性は大丈夫なんだろうか?
「念の為に1日入院するけど心配いらないわよ?」
待合室の椅子に座っていると、看護師が私を見つけて教えてくれた。
「会えますか?」
「今は眠っているから無理ね。あなたの連絡先を教えてくれれば伝えるわよ?」
顔を見て大丈夫か確認したいと思ったけれど眠っているなら無理だよね。そう思って帰ることにした。
「今日は帰ります。明日また来ます」
病院から出て、鞄を店に放り出してきてしまったことに気がついた。
雅樹にメールを送ると『預かってる』との返事が返ってきて、明日取りに行くメールを返した。
病院の周囲を見渡してみると、ここがどこなのか良くわからない。看板に書かれている住所を見ても、漠然とした位置は分かるけれど、家からどれくらい離れているのだろう?
お財布も持っていないし、困った。
公共機関では帰れないので、タクシーに乗って屋敷の住所を伝えると、運転手は胡散臭そうに私を見た。
「お姉ちゃん、鞄持ってないよね?お金持ってるの?」
「お財布は今持ってないですけど、家についたら家族がお支払します」
そう言うと、ますます胡散臭そうに見る。
「ここからお姉ちゃんが言う住所まで結構な距離だけど?払えるの?」
「必ずお支払します!」
「降りなさい!こっちは女子高生のイタズラに付き合っていられる程暇じゃないんだよ!」
運転手に怒鳴られてタクシーを降りざるをえなかった。イタズラに思われても仕方ないか・・
漣兄様の携帯に電話をすると、話中だった。忙しいのに悪いな、と思いながら史兄様に電話をするとすぐに出てくれた。
『利奈?』
「史兄様、迎えに来て欲しいの」
『いいよ。今どこにいるんだ?』
「良くわからない・・三浦総合病院っていうところにいるの」
病院という単語に兄様の声が低くなった。
『何があった?』
「具合が悪い女の人がいて救急車を呼んで付き添ってきたの」
『すぐに行かせるから待っていなさい』
携帯に雅樹から電話が来たから病院の外に出た
「もしもし?」
『利奈、明日ウチに鞄を取りにくるって言ってたよな?』
「うん」
『悪い、明日ウチにゆかりが来るんだ』
仲直りできたんだね、良かったね!
「じゃあ、私が行かない方がいいね。家の人に取りに行ってもらうね。おばさんに伝えて貰える?剣崎っていう家の遣いが私の鞄をとりに来たら渡して欲しいって」
『・・わかった。伝えておく』
「よろしくね。ねぇ、雅樹、仲直りできそう?」
『なんとか・・・』
さっきまであんなに落ち込んだ声をしていたのが嘘みたいに明るい声だった。
本当に良かったね!
「私とペアリングを見に行ったこと、言っちゃダメだよ?」
『わかってる』
「うん、頑張ってね」
何だか、私まで嬉しくなってしまった。
雅樹との電話を終えて、迎えの車を待っていると、駐車スペースに見慣れた車が入ってきた。
「利奈様、遅くなりました」
史兄様は自分の秘書を寄越してくれた。
詫びる彼に、私の不注意だから。と言い、車に乗った。
鞄を置いて救急車に乗ったことと、雅樹が預かってくれている事を話すと、
このまま雅樹の家に鞄を取りに行くことになった。
途中で手土産を買い、秘書が雅樹の家に行ってくれた。
「雅樹のお母さん吃驚してなかった?」
私が聞くと秘書は穏やかに笑った。
「驚かれていましたが事情を話して理解して下さったようです。雅樹さんもいらっしゃいましたよ?」
「雅樹には後でメールするわ。明日、史兄様の予定は空いてる?」
「午後からでしたら空いていますよ」
「私が出かけたいって言っても大丈夫?タイトなスケジュールになっていて疲れたりしない?」
私が言うと秘書は少し可笑しそうに笑った。
どうして笑うの?私、変な事言った?
「失礼しました。史明様なら、利奈様の用事を優先して下さいますよ?たまには我儘を言ってもよろしいと思いますよ」
だって、最近の史兄様はいつも忙しそうにしているから我儘を言ったら困らせると思ったんだもん。




