球技大会 (5)
バスケットの試合が終わり、黎人について更衣室に向かった。
学年ごとに更衣室が用意されているからついてきてくれなくても大丈夫だよ。って言ったけど、黎人は一緒に来てくれた。
汗を流して更衣室を出ると、制服に着替えた黎人が待っていてくれた。
廊下を歩いていると急に黎人の手が私の口を塞ぎ、教室に引きずり込まれた
「!」
ちょっと!何するの!?首を捻り声にならない唸り声で抗議すると、黎人は耳元で囁いた。
「声出すなよ。そこの隙間から廊下見てみろ」
膝をついて引き戸になっている扉の隙間から廊下を覗くと、隙間から女性教師と漣兄様が見えた。
漣兄様が後ろを向いているから分からないけど、女性教師の顔は良く見えた。
1年生に受け持ちのない先生だから分からないけど、思いつめたような顔をして漣兄様を見ている。
“あれはなに?どういうこと!?”黎人に聞くと、黎人は私の腕を後ろに引いて床に座らせた。
“たまにいるんだよ・・漣に惚れる教師”
え!?
もう一度覗こうと扉に近付こうとしたら、強く腕を引かれて黎人の足の間に転がってしまった。
“見るな。漣だって見られたくないだろ?”
「教師って・・っ」
手で口を塞がれた「声が大きい」そう言われて睨まれた。
“大きい声を出すなよ?わかったか?”
黎人の言葉に頷くと手を離してもらえた。
“教師って生徒に手を出してもいいの?”小さい声で聞くと黎人は片眉を上げてニヤリと笑った。
“表向きはダメだろ”
漣兄様がなんて答えるのかが気になって扉に近付こうとすると“だから、駄目だって言ってるだろ!”黎人の腕がウエストに周り、連れ戻された。
“バカ”
黎人の胸にもたれるように座らせられた。
“漣兄様は断るんでしょ?”
首を捻り、黎人に聞くと
“さぁな、多分断るんじゃないのか?”
興味が無さそうに言って私の肩に自分の顎を乗せた。
“それより、バスケは優勝したな。ご褒美に何がいいか考えたか?”
その言葉に、悩んだ結果を伝えた。
“パフェ、ご褒美にパフェがいい”
黎人は、“パフェ?”と少し驚いていた。
“お気に入りのお店にあるパフェを全種類食べたい”
そう言うと、クックッと肩を震わせて笑った。
“全種類って、利奈、どんだけ食うんだよ・・・いいよ。ご褒美だ、連れて行ってやるよ”
やった!
“利奈、オレにも頑張ったご褒美くれる?”
黎人にご褒美?いらないでしょ。と言いそうになったけど、黎人にはお世話になっているから頷いた。
“いいけど・・・何がいいの?”
セクハラなお願いは却下してやろう。と思い返事をすると
“考えておく。漣の話が終わるまでここで待機だな”
そう言って私を教室の窓際に連れて行き壁に背を預けて床に座った。
「利奈、陸上部に入るんだろ?」
「うん。黎人は何のクラブに入っているの?」
「弓道部・・・って知らなかったのかよ」
「うん。黎人が皆川グループの御曹司だっていう事も最近知った」
黎人は「情報が遅い」と言って苦笑いしていた。
皆川グループは金融機関を核として幅広く展開しているの複合企業だった。『この学園で剣崎と皆川に喧嘩を売るバカはいない』そう言っていた黎人の言葉に納得した。
「じゃあ、あれも聞いたろ?」
「巨塔?」
黎人は頷いた。口の悪い人は陰で、桃陵学園の“2大巨塔”と言っている。
もう1つの巨塔は剣崎漣。良くも悪くもこの二人は目立つ。
「利奈、人の想いは止められないよな」
「うん」
「おまえに悪意を持っている女もいる。」
私を見ないで淡々と話した。
「だから、兄貴達とオレを上手く利用しろ」
それってフェアじゃないよ。家柄を利用するとか本当は好きじゃない。
「自分が一般庶民とは違うこと位自覚してるんだろ?」
私はもうすぐ剣崎の姓に変わる。
「うん、わかってる」
「なら、今は利用しろ。・・・わかったか?」
「黎人は優しいね」
ふっと笑って私の顔を覗き込んだ。
「やっと理解したんだ」
「バカにしてるでしょ」
「してないよ」
この目は・・・黎人のこの目は私を動けなくする。
柔らかい唇を受け止めた
深いキスに頭の中に靄がかかる。
息苦しくなり黎人の唇から逃れて息を整えるけど、またすぐに唇が降りてきて
自分の体を支えていた腕に力が入らなくなり、カクンと体が傾くと黎人の腕が背中を支えて自分に引き寄せた。
「利奈」
そう言ってまた唇が重なる
その時、携帯の震える音がして、黎人はため息をついて電話に出た。
「そっちこそ、片付いたのか?」
黎人の胸に頬を寄せると空いている手で背中を撫でた。
『おまえ、見てたのかよ』
黎人に密着しているから兄様の声が聞こえた。
「見た。断るにしろ受けるにしろもっと目立たない所で話せよな」
“利奈は?”
兄様の問いかけに黎人はちらっとこちらを見た。
「子供には目の毒だから見ないようにしてやったよ。感謝しろよ?」
な?と目で聞くから、声に出さないで“子供じゃない”と言った。
「とにかくそっちに行くよ」
通話を切って頬にキスをした。