鬼コーチ (2)
体育館に戻ると先輩が絆創膏を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
受け取ろうとすると横から奪われた
「・・・皆川先輩?」
福本先輩がつぶやいた
「利奈、座れ」
「ただのひっかき傷だから大丈夫だよ?」
大袈裟だよ。そんな風にしたら、黎人のファンをまた刺激するだけだよ
「いいから座れ」
黎人、機嫌悪い・・・
大会の前に喧嘩はしたくなかったから素直に床に座ると、消毒薬を傷口に吹き付けた。
「うっ・・・」
染みる・・手加減してよ。
「とりあえず血が出ているところだけ貼るぞ」
絆創膏を貼られた
「皆川先輩、香織からもらったプリンは?」
「今食べるのか?」
食べたいのはやまやまだけど
「ウチで食べますよ・・・ギャラリーが多すぎます」
「邪魔な奴らだ」
「気にしていたらやってられませんよ?皆川先輩」
ギャラリーやファンが押しかける状況を楽しめる漣兄様がすごいと思う。
前の学校ではせいぜい見ないふりをしてやり過ごすことくらいしかできなかった。
ギャラリーが騒然として、私と黎人が顔をあげると珍しい人がこちらに歩いてきていた。
「利奈」
穏やかに笑う
ギャラリーは史兄様に注目していた。
「史兄様・・・」
兄様は私と黎人のやり取りを見てふっと眉をひそめた。
「女の子なんだから・・・」
「史兄様、良くある事だから大丈夫」
「気をつけなさい、利奈。・・・皆川君もいつも申し訳ないね」
「いえ、この位は」
黎人は表向きの顔をしているときは、礼儀正しい好青年になる。
私の前では口が悪い、キス魔のくせに。二重人格だ・・・
「史兄様、今日はどうしたの?」
「漣が用事で遅くなるから利奈を迎えに来たんだよ」
史兄様に腕を引かれて立ち上がった。兄様は私の腕を見てまた眉を顰めていた。
「用事?」
私が呟くと黎人が教えてくれた
「ああ・・・テニスのウェアが出来たから取りに行くって言ってた」
テニスウェアという言葉にイヤなものを感じた。
「・・・ウェアって、私スコート履くの?」
「もちろんだよ。利奈のウェアは漣と二人で選んでおいたから」
笑顔で言う兄様に首を横に振った。
「恥ずかしいから嫌・・・」
陸上のユニフォームと違ってスコートは恥ずかしい・・この二人が選んだウェアなら、フリルとかがついていそう・・
「利奈に似合うはずだよ?」
似合ったとしても恥ずかしいよ!?試合に集中できないじゃない!
「バスケのユニフォームは桐生が手配してくれたから」
「え?」
「桐生が張り切ってデザインしてた」
わざわざ作ったの?体操着のジャージで間に合うでしょう!?
この感覚がまだついていけない・・・