鬼コーチ (1)
バスケ部の先輩は鬼だった。
5分間、私に張り付いてガードしまくり、私にガードを振り切りゴールを狙わせるという苦行を強いた。
ジャマ、ジャマ、ジャマ!!
もうイヤ!
ゴールの手前でボールを思い切り床に叩きつけた
「!?」
驚いた先輩の隙をついて先輩を回り込みジャンプしてボールをつかみゴールに放り込んだ
「りーな!お前な・・・」
だってイライラしたんだもん
「松本、まだ5分経ってないぞ」
またぴったりと張りつく先輩・・・
なかなか振り切れない
ゴールしたくてもできないまま、5分が過ぎた
「しんど・・・」
床にペタリと座り込むと、黎人がペットボトルを差し出しながら言った。
「お前って案外短気だよな」
うるさいな
「・・・」
手を伸ばして受け取ると笑いながら言った。
「漣より気が短い」
そうだよ・・・3人の中で一番気が短いです
「陸上は瞬発力が命だから・・・?」
「それ、全然違うだろ・・・ほら立てよ、1ゲームしたら終わりにするから」
黎人に手を引かれヨイショ、と立ち上がり水を飲んだ。
コートの外には黎人のファンが並んでいる
歓声をあげると黎人に怒られるから静かにしているけれど、その眼は相変わらず私を睨んでいた
「松本!」
パスをカットして黎人にまわそうとすると、ボールを奪おうとする女子の手が伸びてくる
「!」
左腕で顔を庇った。途端に食い込む爪
“ガリッ”という音がするようだ
「先輩・・・顔はやめましょう?」
私が低い声で言うと顔をそらした。
「っ・・・」
顔を赤くするくらいならやらなければいいのに。
ファウルをとられ私はゴールポストにボールを放り込んだ。
引っかかれたところを見ると三本線のひっかき傷が出来ていた
うっすらと血が滲んでいるところをぺろりと舐めた。
大した傷じゃない。後で消毒しよ・・
試合が再開されてからも執拗に爪を突き立てようとする先輩に苦労させられた
「利奈、あいつを抑えるから」
黎人が言い、先輩に張り付いた。途端に彼女は顔を赤くして動きがぎこちなくなる。
イラついていた私はことごとくパスをカットして連続でゴールを決めた
ホイッスルが鳴りゲームが終了した。
ミミズばれだらけの腕を見て、ため息をついた
「松本、大丈夫か」
2年の福本先輩はひっかき傷を見て眉をひそめた。
「大したことないですから、大丈夫ですよ」
今度から消毒薬と絆創膏を持って歩こう。そう思いながら水道水で傷を洗おうと体育館の外に出た。
血が流れたのは1箇所・・・足音が私の横で止まった
顔をそちらに向けると下唇をかみ締めている先ほど私をひっかきまくった2年の先輩が立っていた
「先輩・・・」
「あなたが悪いのよっ」
心の中でため息をついた
「皆川先輩といつも一緒で・・・あなたがいなかったら私が同じチームになれたのに」
確かに、彼女は経験者だから同じチームになれたかもしれない。でも私の意志でメンバーになった訳じゃない
「そうですか・・・」
私はタオルで腕を拭いた
「私の言いたい事はそれだけだから!」
走って行ってしまった。・・・もしかして大会も同じ目にあったりして・・・
「めんどくさ・・・」