もう一度 (4)
更衣室を出ると廊下で黎人が待っていた。
「何してるの?」
「一人にするとさっきみたいな女に絡まれるだろ?」
まぁ、そうだね。
私に文句が言いたい人は、私が漣兄様から離れた時を狙って来る。
「でも、こうやって二人で歩いたら余計に言われると思うんだけど」
「そうかもな」
そうかもな。じゃなくて、私は困るんだよ?
「黎人、無責任だよ」
「下らないギャラリーに振り回されるな。堂々としていればいいだろ?責任ならとってやるよ」
どういう意味?
そう聞こうと思ったら、大きな声で呼ばれた
「松本さん!」
女子バスケ部の部長が来た
「はい・・・」
勢いよく名前を呼ばれ、黎人が何事かと見ていた。
「3日後、練習試合があるのよ!助けて欲しいの」
「先輩、私はちゃんとした試合は経験がありません」
無理だと思う。
私がバスケットをできるように見えるのは祐介達がフォローしてくれているからだし、この球技大会だって黎人と福本先輩のフォローがあるから形になっているだけ。
「あなたなら大丈夫!即戦力になるから」
言い切る先輩に困ってしまい隣にいる黎人を見ると
「利奈は部員じゃないんだぞ?無茶な事言うなよ」
先輩に対して強く言えない私に代わって黎人が無理だと言ってくれた。
「皆川君だって彼女と練習してて分かるでしょ?」
「先輩、やっぱり無理ですよ」
強豪チームと張り合えるような技術があるわけではないからはっきり断ろうと思った。
「お願い!その日だけでいいの!」
両手を合わせて頭を下げる先輩は断る私が申し訳ないと思ってしまうくらい必死だった。
「翔慶学院と試合なんだけど・・・お願い!」
「え?・・翔慶ですか?」
「利奈、何考えてるんだ?運動神経がいいお前でも強豪相手に無茶だ、無理するな」
安易に返事をしかけていた私は、私の足を心配してくれているだろう黎人の言葉で現実に引き戻された。
「先輩、やっぱり無理です」
「こんなに頼んでも駄目なの?翔慶学院に行って試合するのよ・・あなた、あそこの卒業生よね?」
翔慶学院に行くの?
「利奈、駄目だぞ」
あそこに行ったら大輝ともう一度話ができる・・・大輝をもう一度説得できる
「・・・いいですよ。その日だけなら」
試合よりも大輝の事で頭が一杯になってしまった。
「利奈?」
「ありがとう!詳しいことは明日話すわね!」
先輩は喜んで帰り、不機嫌そうな顔をした黎人が私を見ていた。
「なに安請け合いしてるんだよ?」
「だって・・・」
「またあの男の事か?」
「そんなに怒らないでよ・・」
「伝えたんだろ?あとは本人次第だろ。利奈がそこまでしてやる必要はないだろ!自分の身体の事を考えろ!」
どうして黎人がそんなに激しい口調で怒るのかわからなかった。土曜日は優しく励ましてくれたのに・・
「黎人?」
急に不機嫌になった黎人は私を置いて体育館に行ってしまった。