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もう一度  (3)

“漣の妹”これが最近の私にまとわりつく枕詞みたいなもの

公表したらそう言われるのは覚悟していたけれどね

こういう女に言われるのはイライラするな・・・



「利奈がここに来てない?」


入口の方から声がした。


「皆川先輩・・・松本さんは本の片付けをしています」


先輩も正直に答えなくともいいのに・・・


「悪い、練習だから借りていく」


図書室は静かだから声が筒抜け


「はい!ここの仕事は大丈夫ですから。」


二人のやり取りにがっかりした。

同じA組の先輩は簡単に私を黎人に売り渡してしまった。


足音がして黎人が本棚の列を見ているのがわかる。黎人は変に勘がいいから、上級生と私がいることを変に思うよね


私は本棚に戻したばかりの本をまた取り出した

足音が近づき一列手前位に来たときに


「センパイ、これがお探しの小説です」


そう言って上級生に押し付けた。


「え?」


目で“わかりなさいよ?”と訴えると彼女は本を受け取った


黎人がツカツカとこちらに歩み寄り私を見下ろす。


「利奈、練習サボるなよ」


「黎人君!」


可愛らしい声を出して黎人を呼んだ。

あきとくん!・・・だって、さっきまで皆川君でしたよね?


「オレ、名前で呼ばれるの嫌いなんだけど」


黎人は可愛く名前を呼んだ彼女をバッサリ切り捨てた。あまりにも冷たいその言い方に、言われた彼女は顔を強張らせて泣きそうになっている。


「センパイ、その恋愛小説はかなりおすすめですよ?」


にっこり笑って彼女を見ると彼女はそそくさと貸し出しカウンターに向かった。


「利奈、練習」


「皆川先輩、今日は委員会ですよ?」


図書委員の先輩とのやりとりが聞こえていたが一応、抵抗してみる


「球技大会が優先。早く来い」


2年の先輩に売り渡された私は黎人に引きずられるようにして図書室を出た。




ちょっと黎人、そっちは更衣室じゃないのでは?


「皆川先輩、痛いです」


黎人に連れてこられたのは美化委員室。黎人は部屋に入ると前と同じように扉の鍵を閉めた


「皆川先輩、練習に行くんじゃないんですか」


「座れ」


黎人から少し離れた席に座ると


「・・・生意気だ」


黎人はキャスターのついた椅子に座った私を自分に引き寄せた。


「みな「黎人だ」」


遮られた。さっき名前で呼ばれるのは嫌いだって言ったよね?


「あの女に何を言われた」


「・・・本の場所を聞かれた」


長い指で顎をつかみ自分に向けた


「利奈、何を言われた?」


もう一度同じことを聞く。私の答えも同じだ。


「本の場・・・いひゃい」


黎人の長い指が私の頬を引っ張り怖い顔をして凄んだ。


「りーなー?」


痛い!

手を振り払い引っ張られた頬をさすりながら黎人を睨んだ


「毎回言われるのは同じ。皆川先輩に近づくなって事だよ」


かなり端折ってしまったがそれが事実だ


「それで?毎回“はいわかりました”って答えるのか」


答えようがないことも言われているけれど・・


「まぁ、適当に・・・」


「適当?」


何でそんなにイライラしているの?

イライラしながらじっと私を見つめる。その目の後には・・・・

学習した経験を活かして私は椅子から立ち上がった


「練習するんだよね?」


黎人も立ち上がったので扉に向かおうと向きを変えたら


「やっ・・・」


黎人の胸にすっぽりおさめられていた


「オレの事で呼びだされたり、何か言われたらすぐに言え」


「大丈夫だよ?こういうの慣れているし」


私を抱く手に力がこもった


「・・・利奈、お前バカだろ」


「はぁ?何言ってるの!ちょっと離して」


「やだ」


やだじゃない!

腕から逃れようともがくと更に力が込められた


「黎人、痛い」


少しだけ力が緩められたけれど私に巻きつく腕は外されなかった。


「黎人?」


黎人の顔を見上げると長い睫毛を伏せたきれいな顔が落ちてきた。見とれそうになったけれど、何とか踏みとどまり、気をそらすために話題を探した。


「き、昨日!会ったよ?」


唇が触れそうな位置で黎人はピタリと止まった。


「誰に?」


「大輝に会った!」


「・・・それで?」


黎人の腕の中から出ようとしたけれど、腕を離してくれないので仕方なくそのまま昨日の事を説明した。


「会いに行って、最初は会ってくれないと思ったけど、2時間待って会えたの」


「2時間?どういうことだ?」


大輝とのやりとりを話すと、黎人は呆れたように私を見ていた。


「黎人は話せば分かってくれるって言ったでしょう?だから話をするためには会わなきゃいけないと思ったから何時間でも待つつもりで行ったの」


「オレならそんなに待たないけど・・・まぁ、言いたいことを伝えられたなら良かったな」


溜息をつきながらそう言った。


「うん。ありがとね」


「利奈の髪・・・甘い匂いがする」


「チョコの・・・黎人っ離して」


せっかく気を逸らせたと思ったのに、また黎人は甘い雰囲気を作り出してしまった。


「練習に行くんでしょ?」


そう言うと、腕が解かれてホッと息をついた。苦しかった・・・


むにゅ・・・また頬をつまむ黎人を睨んだ


「やっぱりお前はバカだな」


むかっ!と来たので黎人のお腹に拳で突いた


「全然効かねぇよ」


笑っている黎人を無視して扉に歩み寄り、鍵を外し黎人に振り返った


「バカじゃないもん!」


「ハイハイ。早く着替えてこい」


ピシャリと扉を閉めて更衣室に走った


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