もう一度 (2)
「うわぁ・・・利奈の作ったケーキ美味しい」
「香織のマドレーヌも美味しいよ?」
午前中、家庭科の授業で調理実習だった私達は互いに作ったお菓子をお昼休みに交換していた。この学校ではテーマに沿っていれば自分の好きなものを作ることができる。授業と言うよりはお遊び。そんな感じだ。
香織はマドレーヌ、私は甘さを控えたチョコレートケーキ。香織が作ったマドレーヌはコクがあって美味しかった。
「利奈、全部食べてね」
香織は私に残ったマドレーヌをくれた
「ありがとう、練習の後ってお腹すくから嬉しい」
「利奈はお菓子作りも上手いね」
兄様はにこにこしながら私が作ったケーキを食べている。
レシピ通りに作っただけだから誰でもこの味になると思うんだけど、兄バカの兄様は美味しいと褒めてくれる。
「オレ甘いの嫌いなんだけど。次はもっと甘さを抑えろよ」
土曜日にいい人だと思ったのは気のせい?週が明けたらいつもの憎たらしい黎人に戻っている・・
「皆川センパイ・・・だったら食べなければいいじゃないですか」
私が言うと黎人はニヤリと笑いケーキを口に運んだ。
「次の調理実習はキッシュを作るんですよ」
香織がにっこり笑った。
この人達に余計な情報は与えなくていいから。ね?香織ちゃん
「へえ、オレ結構好き」
黎人はさらっと答える
「ファンの子にもらえばいいじゃないですか」
私が言うと
「知らない女の手作りなんて気持ち悪くて食えるかよ」
そういえばさっきから皆川ファンが差し出すお菓子を断り続けている。
「利奈、オレはスモークサーモンのキッシュがいいな。チーズ多めでね」
「え~・・私はほうれん草のキッシュにするつもりなのに」
漣兄様の言葉に私が反発すると黎人が
「オレもスモークサーモンがいい」
この二人、食べる気満々だ。むっとして二人を見ると
「利奈、私がほうれん草作るから、一緒に食べよ?」
「香織~ありがとう!私が男だったら香織みたいな子を彼女にしたいよ」
「ふふっ利奈に嫁いじゃおうかな」
「いいよ!香織なら大歓迎!」
二人でじゃれていると、漣兄様と黎人が呆れていた。
放課後に私は鞄を持ち、帰る準備をした。
今日は図書委員の日で、仕事が終わったら図書室からまっすぐ帰るつもりだ。
「利奈、図書委員?」
「うん、当番なの」
「練習は?」
「委員会を休むように言われてないからいいんじゃない?」
「そうかな・・・」
首をひねる香織に手を振って図書室へ急いだ
「真面目ね、松本さんは」
そう言われながら返却処理の済んだ本を片付けることにした。せっかく委員になったのに、なかなか本を読めないな・・・
女子高生に人気の恋愛小説を棚にしまった。
「あら、漣君の妹さんじゃない?」
声を掛けられた方を見ると、上履きの色から上級生だとわかる女子生徒が腕を組み立っていた。
最近、こういうのが多くて困る。
「皆川君は気紛れだから・・・あなたみたいなのが珍しいのよね。彼ったら残酷だから・・・」
黎人のファンは漣兄様のそれより精神年齢が高いように思われる。
白薔薇会が『恋に夢見る妄想ちゃん」なら、黎人のファンは大人のお付き合い可能。むしろそれを望んでいるお姉様達だ
「そうですね・・・珍しいんだと思います」
それは事実だ。
気紛れかどうかは知らないけど“リサ”を探し出したのは面白そうだったから
わざわざ言いに来なくても知っているのに。
「あなたが作ったケーキを漣君が食べているから興味をもっただけよ・・・勘違いしないでね?」
言いたかった事はそれですか。
他の人が差し出すお菓子を断って私のチョコレートケーキを食べていたことが面白くない。
「・・・ご忠告ありがとうございます」
食べようと思っていたケーキまで食べられてしまった私は被害者だと思うんだけど?
「皆川君はあなたが漣君の妹だから優しいのよ?忘れないでね」
ハイハイわかっています。わかっていることをネチネチ言われて
・・・イライラする