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払い除けられた手 (6)

「利奈、帰るぞ」


黎人が立ち尽している私の肩を引き寄せた。


「・・泣いているのか?」


首を横に振った。泣いてなんかないよ。




車の中で私は引き寄せられるままに黎人の肩にもたれていた。


私はずるい。

自己嫌悪で胸が押し潰されそうに痛くて、そんな痛みを感じている自分がますます嫌になった。


「あいつ・・友達か?」


「うん。大輝は私の・・憧れ、かな」


『残酷だな』その言葉が頭から離れない。


「憧れ?」


「うん・・・でも、嫌われちゃった」


言葉にしたら涙がこぼれた。

大輝に嫌われた・・今まで大輝の気持ちを考えてこなかった。

自分の気持ちばかりを伝えようとしていた。


「喧嘩か?」


「ちがっ・・」


私が彼女達に言われているなら、大輝だって何か言われていたとしてもおかしくないのに、それに気づかないなんて私はバカだ。


大輝は優しくて、責任感が強いから私が突き落とされたのは自分のせいだと思ったと思う。それなのに私が彼女達に言われるまま、大輝に酷いことをされたくなくて庇ったから・・


「泣きたいなら、泣け」


そう言って私の頭を抱えるようにして耳元で優しく言った。

その言葉に首を横に振ると


「強情だな」


黎人はそう言って笑った。


「あいつは何であの店にいたんだ?」


「私のせいだと思う」


「どうしてそう思う?」


「私が大輝を傷つけたから」


自分の口で言葉にするとまた胸が痛くなった。また涙が出そうになって俯くと頭を撫でられた。

今日の黎人は優しい・・


「友達・・なんだろ?」


「うん」


「だったら、もう一度話してみれば?」


「もう、会ってくれないかもしれない・・」


「随分弱気だな。いつもの勢いはどうした?」


何がおかしいのか、笑いながら私の背中を軽く叩いた。


「今日の黎人は優しいんだね、兄様みたい」


そう言うと、膝の下に腕が回されて強い力で持ち上げられた。

驚いて顔をあげると、黎人の足の上に乗せられていて、黎人の顔が目の前にあった。


「利奈は兄貴とこういうこともするのか?」


そう言って笑うと、私の目元に口付けて涙を拭った。


「やっ」


身を捩ろうとすると、強い力で抱きしめられた


「利奈の友達も泣きそうな顔をしているように見えた。話せば分かってくれるんじゃないか?」


黎人の首筋に顔を埋める様な格好でその言葉を聞いていると、耳元で響く声がくすぐったかった。


「うん。黎人、ありがと」




黎人の腕の中が心地よく感じられて、抱きしめられるままになっていた。


「利奈、もうすぐ屋敷につく」


顔をあげると、すぐ近くに黎人の顔があった。


「黙って抜け出して来たんだろ?」


「・・・」


そうでした。私がいないことに気付くかな・・・


「大人しく怒られるよ」


溜息をつくと黎人は笑った


「笑わないで」


「悪い」


そう言っても笑っているから、黎人の頬をつまんでやった。

いつも私の頬をつまむからお返し。


黎人は私の手を自分の頬から外させるとそのまま後頭部に手を回して引き寄せると黎人の顔が傾けられて、形の良い唇が降りてきた。


唇が触れるだけの優しいキスをして私は黎人の腕の中に頬を埋めて目を閉じた。

今日はこの場所がとても落ち着く・・・




屋敷に戻り、こっそりと中に入り、自分の部屋の扉を開いたら兄様達がいた。


「・・・」


「おかえり、利奈」


史兄様がニッコリと笑っている。漣兄様は感情が読めないような無表情だった。


「ただいま・・・」


二人とも怖い。


「友達が心配なのはわかるけど、一人で行くところじゃないよな?」


漣兄様の言葉に驚いた。どうして知ってるの?


「皆川君が連絡をくれたんだよ。偶然、利奈を見かけたから連れて帰るって」


心の中で黎人に感謝した。兄様達に納得するような理由で連絡してくれたんだ。


「ごめんなさい」





私は、兄様達からコンコンとお説教されて、一人で夜に出歩かないことを約束させられ、やっと解放されたのは空が白くなり始めた頃だった。


シャワーを浴びてトレーニングウェアに着替えた。

今日から、パパが手配してくれたトレーナーと一緒に走り始める。




走りながら、大輝の事を考えた。


彼の事を考えると胸が痛くなるけれど、黎人と話したせいか、少しは前向きに考えられるようになっていた。

大輝に会いに行こう。やっぱり大輝には走るのをやめて欲しくないから、もう一度会って話をしよう。


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