払い除けられた手 (4)
「リサ、いつものでいいのか?」
「今日は水でいい・・・」
いつものクラブでミネラルウォーターを受け取った
『珍しいな』と言われた。確かに・・いつもは1杯だけ飲んで、その後に水を飲むということが多かったから、最初から水は珍しいかも。
「そういえばお前捜されてたぞ?」
私を見て意味深に笑う彼を見て、まさかと思ったけれど一応聞いてみた。
「誰に?」
ペットボトルに口をつけて一口含んだ。
「アキって奴。知ってる?」
ホントに捜してたんだ・・・
「前に声を掛けられたような気がする」
「たまに来るんだけど女の子にすげー人気あんだわ」
うん、知ってる・・昼も夜も人気者なんだね
「・・・私も今日は人捜しなんだよね」
「誰?」
「翔慶のあの女・・・どこに通っている?」
カウンターに身を乗り出し、低い声で彼の耳元に囁くと目を細めて私を見下ろす。
「・・・関わらない方がいい」
真顔になり私の顔をじっと見た。
「友達がそこにいるの」
「悪いことは言わない。やめろ」
首を横に振りながら私を止めようとする彼の言葉で答えをもらったようなものだ。
「リサ、行くなよ。お前はここでおとなしく遊んでろ」
忠告はありがたかったけれど、行かないわけにはいかない。
「ありがと」
店を出て、近づくなと言われた店に向かう・・・
大輝が出入りしているなんて信じられなかった。
そこは黒い噂の絶えない店だった。
上田と仲が良かった先輩とその仲間が良く行っていたはず・・先輩は暴走族に入っていると自慢していたのを覚えている。高校になって上田も出入りするようになったのだろう。
店に入ると甘ったるい香水の匂いに思わず眉をひそめた。薄暗い店の中で目を凝らして大輝を探した
祐介達から聞いた話はただの噂であって欲しい。そう思いながら目を凝らして店の中を探すと・・・
「大輝・・」
手にしたグラスを口元に運び、話しかけている女に頷きながら相槌を打っている大輝がいた。
噂じゃなかった・・・どうしてこんなところにいるの?
彼のところに行こうとしたら・・・腕を引かれた。
「こんなところで何やってるんだ?」
「・・・何で?」
私の腕を引いたのは黎人だった。
どうしてここにいるの?
私が何も言えずに黎人を見上げていると、掴まれた腕を引き寄せられて私が持っていたグラスを取り上げられた。
「クラブ仲間からリサが来てるって連絡が入った」
それだけでここにきたの?
「ここがどういう店か知らないわけじゃないよな?」
その言葉に答えずに大輝の方を見ると、彼はまだ女と話をしていた。
「利奈、帰るぞ」
黎人は私から取り上げたグラスをテーブルに置いて私を店から連れ出そうと腕を引き、私はそれに抵抗した。
「まだ帰らない」
帰るわけにはいかないんだよ。
「利奈」
抵抗する私に、諭すように名前を呼んだ
「この店に用事があるの、それが終わったら帰るから!」
「用事?」
大輝の方を見ると、彼が私を見ていた。
“利奈?”
唇がそう言っていた。




