払い除けられた手 (2)
スポーツ用品店でウェアを見ている私。こんな健全な高校生をしているなんてひと月前には考えられなかった。
「利奈、足のサイズは」
「23.5」
「小さい!」
「二人が大きすぎるんだよ」
二人は笑いながら選んでくれた
「足に負担をかけないのにしろ」
「そうそう、これがオススメ。オレ達とお揃いだぞ?嬉しいだろ」
二人とも最初は『本当に利奈は色気が足りない』とバカにして笑っていたけれど、真剣に選んでくれた。
「色違いにする」
二人が勧めてくれたのを買うことにしてジャージとランニング用のウェアや帽子も選んだ。
「それにしても2種目に出るなんて無謀だよな」
「そうでしょ?私だって嫌だって言ったんだよ?でもね、優勝したいんだって・・・お兄ちゃんと皆川先輩に強引に決められたの」
本当にあの二人に強引に決められてしまった。
「皆川センパイって女の子に人気ありそうだな」
雅樹が少し含みを持たせて言ったような気がしたけれど気がつかないふりをした
「そうだね、でも人の話を聞かないオレ様だよ」
本当に強引で人の話は聞かない。腹が立つけど、実は面倒見が良くて、何を考えているのか良く解らない人だ。
まだ黎人の言った言葉が良く解らない『甘いから』ってなんだろう・・
「利奈?」
祐介に声を掛けられて我に返った。
「ん?・・・ねぇ、これ・・どっちがいいかな」
ジョギング用のウェアを手にした
「オレ、ピンク」
祐介はピンク
「オレ、青」
雅樹は青・・・
「じゃあ両方にしようかな・・・揃えるのがたくさんあって大変」
雅樹はワシャワシャと大きな手で頭を撫でた。
買い物を終えて、今回の1番の目的だったパフェを食べた
「おいし~」
甘いものが苦手な祐介は眉をひそめて私を見る。
こんなに美味しい物を美味しいと感じられない祐介が不思議だ。
「よく食えるな」
「ん、美味しいもん。ね?雅樹」
雅樹はバナナパフェで私はいちごパフェ
「ああ・・女の子ってホントにこういうの好きだよな」
その発言に“ピン!”と何かを感じて雅樹の顔を覗き込んだ
「雅樹、珍しい発言だね」
「別に、一般論だろ」
そう言ってアイスを掬い口に入れた。怪しい・・・
「ふうん、一般論ねぇ~。祐介、雅樹が私に嘘をつくよ?」
祐介が雅樹に“ばか”っていう顔をしている。やっぱり私の勘は当たったようだ。
「女の子とパフェ食べたんだ~?」
私がそう言うと横を向いてしまった。耳がほんのり赤くなっている
「そっかぁ・・雅樹くんがねぇ・・・」
照れている雅樹が可愛く思えて、顔がニヤケてしまう。雅樹は私を見てますます顔を赤くして怒っている。
「利奈!」
「雅樹、おまえが墓穴ほったんだ。諦めろ」
祐介が冷めた顔で言い、雅樹はうなだれた。
「・・で?どこの学校の子かな?」
「・・・紫苑高校」
観念したのか雅樹は正直に答えた。
「ほぉ・・元男子校で偏差値の高い学校だね。どんな子?っていうか写メ見せて。あるんでしょ?」
祐介が雅樹の胸ポケットから携帯を取り出して操作した
「祐介!何するんだよっ」
「諦めろって」
祐介が見せてくれたのはショートボブの可愛らしい女子高生だった。
「可愛い子だね。良かったね~雅樹」
また耳が赤くなってる。雅樹、かわい~
「なんていう名前?」
「・・・」
「まーさーきーくん?」
小首を傾げて問えば、ボッと赤くなって怒った
「利奈!」
「ごめんごめん。なんていうの?彼女」
「ゆかり・・・」
雅樹が幸せなら私は嬉しいよ。
「お幸せにね」
雅樹にゆかりちゃんとの事を聞いていると携帯が震えた。史兄様だ
“漣が拗ねているけど・・・今どこにいる?”
拗ねてるんだ、兄様。大人げない
“友達に買い物を付き合ってもらって、今はパフェ食べていました”
「友達?」
雅樹の問いに首を横に振って答えた。
「上のお兄ちゃん。大学生なの」
「利奈って何人兄弟?」
「3人だよ。お兄ちゃんが二人いるの」
またメールが届いた
“迎えに行く”
“一人で帰れます。中学の友達には剣崎家の事を話していないので迎えの車を見たら驚かせちゃう”
「お兄さんて優しい?」
「優しいよ。上のお兄ちゃんは時々厳しいけど」
“わかった。普通の車で迎えに行く”
これ以上ごねても無理だ
「これからお兄ちゃんが迎えにきてくれるみたい・・・」