宣言 (2)
「・・・・」
お昼休みに、改めて目の前にいる黎人を観察してみた。
身長は180センチくらい?
髪はどちらかというとショート・・クラブではワックスで遊ばせていたけど学校ではナチュラルにしている。
眼は切れ長で二重、鼻筋は通っている。
唇は上唇の方が薄めで形の良い唇。
スウィート系の漣兄様とは対照的だ。
クラスメイト曰く、クールで色気が漂っていて素敵なんだそうだ。
“皆川先輩に近付くな!”私に言われてもねぇ・・・
「利奈、なんだよ」
黎人に観察しているのがバレた。
「・・観察してみました」
「はぁ?」
「こっちの話だから、気にしないで下さい」
毎朝保健室で手紙の処分をしていることを知っている香織は隣で笑いを堪えている。漣兄様はファンに手を振っている。マメな人だ・・
「利奈、訳わかんないだけど?」
黎人が少し凄んだけれど、私は笑ってごまかした。
突然カフェテラスの話し声が止み漣兄様が少し嫌そうに眉をひそめた。その隣に座っている黎人は片眉を上げて小さく「へぇ・・」と言い含み笑いをしていた。
皆が入口を注目しているので私もその視線の先を辿ってみると高等部では滅多に見ることのない人がいた。
「史明さん、生徒会長と一緒だね」
香織の言葉に頷いてフォークにパスタを巻きつけて口に運んだ。
史兄様が高等部の生徒会役員と一緒にカフェテラスに入ってきて何やら談笑しているみたい。
何か用事があって高等部に来たのだろうか?朝は何も言っていなかったのに
「利奈、史明さんが現役生徒会長のときって“氷の貴公子”って呼ばれていたの知ってる?」
「う゛っ!・・・」
香織の言葉にむせてしまった。ここの学園の人のネーミングセンスって、変だよね?
「やだっ利奈大丈夫?」
ケホケホと苦しんでいるとトントンと軽く背中を叩かれた。
「利奈、大丈夫?お水飲んで」
「ありがと、香織」
香織が背中を叩いてくれているものだと思って顔をあげて隣を見ると、香織はニコニコしながら紅茶を飲んでいる。私の背中を叩いているのは誰?
正面に座っている漣兄様と目が合うと“となり”と目で合図をされ、隣を見ると氷の貴公子がいた
「落ち着くから水を飲んで」
史兄様からグラスを手渡されて水を一口飲むとやっと落ち着いた。
「落ち着いた?」
頷いてもう一口水を飲むと史兄様は私の手からグラスを取り、私の顔を見ると小さく笑った。
「むせるくらい慌てて食べるなんてお行儀が悪いよ?」
優しく窘めながら、苦しくて滲んでしまった涙を史兄様が自分の指で拭った。
・・・史兄様、それ止めて欲しいんですけど。突き刺すような視線を感じるんです・・
「落ち着いて食べなさい。利奈、わかった?」
むせたのは兄様についている変な呼び名のせいです。
食べる気をなくした私はフォークを皿の端に寄せようとすると
「半分以上残ってる。ちゃんと食べなさい」
史兄様に言われて渋々フォークを持ち直して食べ始めた。こんなに注目されながら食べられないよ・・・
「すごーい史明さん。利奈が素直!」
香織が変なところで感心している。史兄様と漣兄様のどちらが怖いかって聞かれたら答えるまでもない。
「父親から利奈を任されているのは僕だからね」
史兄様は何をしに来たんだろう?
「そうなんですかぁ」
漣兄様は静観を決め込んだようで、私と史兄様を見ているだけだった。黎人も素知らぬふりで食事を続けている。
「あの・・史明さんはどうして1年生の彼女に?お知り合いですか?」
史兄様と一緒にいた生徒会役員が私達の席に来て恐る恐る質問してきた。
私の目の前に漣兄様が座っているだけで注目を浴びているのに私の隣に史兄様が座り、しかもむせている私の世話を焼いているのを見てカフェテラスにいるほとんどの生徒がこちらを見ている。
「ああ・・この子はオレ達の妹だからね」
ニコリと笑みを向けられた生徒会役員はポッと頬を赤らめた。
男子生徒をも赤面させる史兄様って・・・
「妹とお聞きしたような気がするのですが?」
生徒会長が呆然としていた。
「そう、利奈はオレ達の妹。可愛いだろ?」
同級生の生徒会長ににっこりと王子様スマイルを向ける漣兄様。
史兄様は生徒会メンバーに笑みを向けた。言葉ではなく眼で語りかけられている生徒会メンバーの顔が引きつっているように見えるのはきっと気のせいじゃないはず
終わった・・・
―――私が望んだ静かな学園生活は今、終わりを告げました―――
カフェテラスを出るとメールが届いた。
いつの間に登録されていたのか差出人は“黎人”となっている。
“面白い物見せてもらった”
“私は大変なの!”メールを返すとすぐに返事が来た
“愛されてるってことだろ?”
ほどほどの愛でお願いしたいと思うのは贅沢でしょうか・・