宣言 (1)
私が剣崎の家に戻って数日後、
プライベートリビングで夕食の後から繰り広げられている不毛な言い合い・・・
「利奈、いいだろ?」
ソファに長い脚を組んで座りこちらを見ている。ここは家の中なのにどうして未だにキラキラ王子モードなのか、理解ができない。
「イ・ヤ。だって面白がって私で遊んでいるだけでしょう?」
だから!妹にそういう視線を投げて寄越さないで!!
「オレはいつだって真面目だよ?」
どの口が言うんだ、白々しい・・・
私の親権者を変更する手続きが始まったと史兄様から聞かされた。学園にも近いうちに事情を説明しに行くという。『松本利奈は剣崎史明と漣の妹』という事実があっという間に学園中に知れ渡るのだろう。
「だから、史兄様が説明に行く日までは今まで通りにして欲しいの!」
『お昼を一緒に食べよう』と漣兄様が言い私は嫌だと突っぱねる。『学園内での過剰なスキンシップは止めて』と言えば今度は兄様が嫌だと突っぱねる。
史兄様が説明に行くその日まで私は今迄通り静かに過ごしたいと思っているのに、この人は私の平穏を邪魔しに来る。
「いやだ」
学校で、私の靴入れは今大変なことになっている。毎日溢れそうになる位、ぎっしりと手紙が入っているのだ。
全部が抗議の手紙で、白薔薇会のお姉様達は私とすれ違うたびにギラギラとした視線を送ってくる。
こんな目に遭うのも漣兄様のせいなんだからね!
「漣兄様の意地悪!」
手元にあったクッションを投げつけてやろうと構えると、後ろからクッションを取り上げられた。
「利奈、行儀悪いぞ」
リビングに入ってきた史兄様に怒られた。漣兄様は笑いながら私を見ている。
「だって漣兄様が意地悪を言うから」
史兄様はクッションを私の膝の上に乗せて私の隣に座った。
「意地悪?」
史兄様に漣兄様が私の平穏な生活を壊していることを訴えると史兄様は呆れた顔をして漣兄様を見ていた。
「漣、おまえは相変わらず・・」
「意地悪じゃなくて、虫除けだよ、虫除け」
史兄様が漣兄様を窘めようとすると漣兄様は笑いながら訳の分からない訂正をした。
「意味わかんない、虫なんかいないから!私が困ってるのを見て楽しんでるだけでしょ!」
クッションを持ち、投げようとすると史兄様に羽交い絞めにされた。
「利奈うるさい。漣、虫ってどういうことだ?」
史兄様が私を黙らせて漣兄様を見ると、漣兄様はニヤリと笑った
「そのまんまだよ。メガネを外したら虫が多くて困ってるんだ」
「・・・わかった。利奈、課題は終わったのか?」
私を羽交い絞めにしたまま上から見下ろしにっこりと笑いながら聞く史兄様に黒い物を感じて素直に答えた。
「まだ。です」
「漣にはオレから言うから、早く課題を済ませなさい」
なんだろうこの感じ・・嫌な予感がする・・・
朝、教室に行く前に保健室に寄るのが私の日課になりつつあった。
「おはようございます」
「おはよ・・今日も大漁だな」
先生とするこの会話も日課になっている。
「この情熱をストレートに本人に向ければいいと思いませんか?」
私は一つずつ丁寧に封を開けて「燃えるごみ」と「燃えないごみ」に分別して処分する。
「あれ?」
今日は新手の手紙があった。『皆川先輩に近づくな、ブス!』と書かれてある。
「皆川か・・あいつもモテるからな~」
先生は呑気に言いながらコーヒーを飲んでいた
黎人は優しい人。でも自分から近づくには危険すぎる。なぜって・・手が出てくるのだから・・危険だ。
「ファンクラブに絡まれないように気をつけろよ」
先生の忠告に素直に頷いて手紙をシュレッダーにかけた。朝の日課はこれで終了。
「先生、お邪魔しました」
「はいよ。ちゃんと授業受けろよ」
「はーい。失礼します」
廊下に出ると噂の人が立っていた
「利奈?」
そうだ、この人保健室の常連だったんだ・・・
「おはようございます。皆川先輩」
「利奈、丁度良かった。あれから史明さんに何か言われたか?」
史兄様?特に言われてはいない・・
首を横に振ると黎人は小さく頷いていた。
「ちゃんとお礼言ってませんでした。いろいろありがとうございました」
頭を下げると、頭の上でフッと笑う声が聞こえた。『なに?』と思って顔を上げるとすぐ近くに顔があった。
「うわっ」
近いから!
後ずさろうとしたら唇が降ってきて触れるだけのキスをしてすぐに離れた
「お礼は言葉よりも行動で示してくれると嬉しいけど?」
「・・・・」
行動で示せって、毎回勝手に奪ってるよね?腹が立ってくるけど私が弱り切っているところばかり見られているせいか今までみたいに強気に出れない。
「またムッとしてる。利奈はすぐ顔に出るな」
そう言ってまた人の頬をむにゅっと摘まむ。
「黎人のセクハラ」
予鈴が鳴ると黎人は手を離した。
「お礼の件は今度ゆっくり、な?」
悔しぃ~!!毎回いいように遊ばれてる!
「今度はありません!!」
保健室に入っていった背中に言ったけれど、黎人は後ろ向きのまま手をひらひらと振り扉を閉めた
Candy -another story-「××××王子(side:黎人)」掲載しました。