表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/125

渡された鍵 (2)

史兄様と別れて、生徒用昇降口の前で香織を待った。

同級生は私を怪訝な顔をして見ていく。「誰だ?こいつ」と目が言っている。


遠くから私を見つけた香織は走ってきた。


「香織、おはよう」


「利奈おはよう!」


私が「利奈」と呼ばれた事に通り過ぎていくクラスメイトが振り返り、眉をひそめてまた顔を戻す。

その仕草に少しショックだった。髪をおろしてメガネをかけない私ってそんなに意外ですか・・


「早いね、どうしたの?」


「香織と話したかったの。1現目をサボってもいい?」


お嬢様をサボらせる事に少し心が痛んだけど


「利奈とデートだね!嬉しい」


純粋に喜んでくれた。香織はいい子だね、大好き




「確かここって言ってたんだよね」


立ち止まったのは職員棟3階の一番奥の部屋。

香織は何故か私の袖を引いて「やめようよ」と言っている。


「利奈、ここって有名な開かずの間だよ?怖いからやめよう?」


開かずの間?

私は兄様からもらった鍵を鍵穴に差し込んで回すと、カチリ、と音がした。


扉を開けると


「うわぁ・・」


兄様の部屋にある調度品と似たような家具が置かれていた


「これが開かずの間?ここって、誰かの私室みたい」


香織も驚いていた。


私は窓を開けて換気をし、ソファに掛けられている布を取り外した


さすが史兄様、趣味が良い

教室とは思えない深く落ち着いた色合いの床に映えるアンティーク調のソファとテーブル。

飾り過ぎていないシンプルなデザインが兄様らしかった


「開かずの間って聞いていたけど、どうして利奈が鍵を持っているの?」


香織に2人掛けのソファに座ってもらい、私は1人掛けのソファに座った。

正面ではなく斜め前から話しかける事にした。本当の事を話して拒絶されるのが恐かったから、正面には座れなかった


「噂で知るんじゃなくて、香織には私からきちんと伝えたかったの。あのね・・・」


「うん、話して?」


切り出せないでいる私に香織は微笑んで私を見てくれた。


「どうしたの?利奈、ちゃんと聞くから大丈夫だよ。話して?」


「うん。私ね、今までママと暮らしていたんだけど、パパに引き取られることになったの」


「そうなんだ、じゃあ名字とかも変わるの?」


香織は穏やかな笑みを向けて私を見て続きを促した


「うん、名字は変わると思う。あのね・・・」


自分で思っていた以上に緊張する。香織は受け入れてくれるだろうか?


「うん」


「あのね・・私、実は剣崎家の娘なの」


「・・・」


言ってしまった・・・香織は一瞬固まった。


「ごめんね、ちょっと驚いているかも。この学園で剣崎っていうと1つしか考えられないんだけど・・・利奈、あなた・・?」


「うん、私のパパは剣崎譲。剣崎史明と剣崎漣は私の兄だよ」


目をパチクリと見開いている。あぁ、こんな表情も可愛いなぁ・・と思ってしまった。


「うそ・・あの2人に妹がいたの?」


私は頷いた。


「急に言われても信じられないよね」


私はネックレスを取り出した。


「え?スクールリング?」


「うん、兄様達のリング。私の御守りなの」


香織にネックレスごと渡すと、彼女は裏面の刻印を見ていた


「この前の魔女狩りってコレが原因?」


「うん。漣兄様がふざけて騒ぎを大きくしたんだ・・・」


「ごめんね、本当にびっくりした・・・でもちゃんと話してくれてありがとう。嬉しい。これからも仲良くしてね?」


「香織、黙っててごめんね」


嬉しくて涙が浮かんでしまった。




昼休みに私はいつものように香織と一緒にお昼を食べていると、カフェテラスに黄色い声が響き渡り、漣兄様が来たことが分かった。


漣兄様は突然私の前の席に座り込み真っ直ぐ私を見た。それに続いて黎人も兄様の隣に座り一瞬目が合ったが黎人は涼しい顔をして料理をオーダーしている。

この二人、どういうつもり?わざわざ私の前に座らなくてもいいのに・・兄様に『離れて座って!』という思いを込めてじ~っと見ると


「・・・利奈、オレのどこが駄目なの?」


「はぃ?」


漣兄様は突拍子もないことを言い出した。


カフェテラスが静まり返った。全員が、と言っていいほど私達に注目している。


――なぜ、剣崎漣が1年の女子生徒を見つめているのか?――

静寂は次第にざわめきに変わり、私たちの事を話しているのが嫌でもわかった。


チラリと周りを見て小さく息を吐いた。

これからは、この注目に耐えなくちゃいけない。私は剣崎漣の妹なのだから。だけど、いきなりこれはないんじゃない?悪ふざけなら止めて、と思い前を向くと、また黎人と目が合った。今度は目が優しく笑っていた。


「なぁ、利奈。何でオレのとこにきてくれないんだよ」


また唐突に言い、悲しそうな目をしている。これはいつもの悪戯ではないらしい・・・


ふいに今朝の出来事を思い出した。

史兄様に起こされると目の前に漣兄様が悲しそうな顔をして立っていた。

今の顔はその時と同じ顔をしている。


何を言いたいのかやっと理解できた私は教えてあげることにした。


「昨日の夜、私はソファに寝たのに目が覚めたらベッドにいたの」


「それは兄貴に聞いた。どうしてオレのところに来ない?」


どうしてと言われても・・・

チラリと兄様を見ると真剣な顔をしている。真剣になるポイントが違うと思うんだけどなぁ


「史兄様は私を潰さないから」


私が言うと兄様はキョトンとしている。黎人は肩を揺らして笑っている。


漣兄様は自覚がないみたいだけど兄様は寝相があまり良くない。昔、雷が怖くて漣兄様のベッドに潜り込んだとき蹴飛ばされた。あの時は痛くて目を覚まし、史兄様のベッドに避難したんだ。重くて目が覚めると兄様の足が私に乗っていたこともある。


「治すから」


「治そうとして治るものじゃないだろ」


黎人が呆れたように言った。

確かに・・・それにもうベッドに潜り込む年齢じゃないし。昨日は特別。


「ねぇ利奈、何のこと?」


「利奈が史明さんにばかりなついているから拗ねてるんだよ」


黎人が私の代わりに説明すると香織はクスクス笑った。


「可愛いですね。剣崎先輩」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ