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譲れないもの(6)

漣兄様を大切に思ってくれてありがとう。


「理由は・・言わない」


そう言うと黎人は何か言おうと口を開きかけたけれど、私にこれ以上言っても無駄だと諦めたのか溜息をついた。


会話がなくなってしまい気まずい思いで黎人をチラリと見ると、何か考え事をしているのか眉根を寄せて窓の外を見ていた。彼から苛立ちが伝わってきて、私は帰った方がいいのではないかと思い「帰る」と隣に声を掛けようとしたときに胸ポケットから家族専用にしている着信メロディが聞こえた。

携帯を取り出して電話をかけてきた相手を確認しないで通話ボタンを押した。


「もしもし」


『携帯が見つかったのか?』


電話をかけてきたのは史兄様だった。


「うん・・・拾ってくれた人がいたの」


黎人がこちらを見て、声に出さずに『漣?』と聞いたので首を横に振った。


『利奈、今どこにいる?』


史兄様の声はいつもよりも硬くて苛立っているように聞こえた。黎人の家にいる。と答えていいものかどうか迷っていると


『屋敷に母親が来ている』


いつもより低い声で伝えられた内容にドクン、と心臓が跳ねた。


「どうしてママがそっちにいるの?」


『利奈が昨日家に帰って来なかったから。今日も帰って来ていないと騒いでいる。利奈、どこにいるんだ?』


「学校の・・・」


隣から伸びてきた手に電話を取り上げられた。黎人は私に視線を向けたまま、史兄様と話し始めた。


「もしもし・・・皆川黎人です。ご無沙汰しています」


「―えぇ、利奈ちゃんは今、ウチにいますよ。――――この前友達になったんですよ。実は昨日、彼女の携帯を拾ったんです。携帯を渡すついでに送って行こうと思いまして、――――そうですか―――わかりました」


黎人はにこやかに話し、何か聞き役になっていたが、私に代わることなく電話を切った。


「史兄様は何て言っていたの?」


「自分が連絡するまで利奈を預かって欲しいって」


兄様がそんな事を?

誰がママの相手をしているの?―――まさか、兄様達が相手をしているわけじゃないよね?

そう考えると、居ても立っても居られなくなり、ソファから立ち上がった。


「私、剣崎の家に行く」


ママは、昨日私に電話を掛けてきた剣幕でパパのところに行ったに違いない。兄様達と顔を合わせて何を言い出すか想像すると恐ろしい。


「オレの話、聞いてた?」


聞いてた。でもその問いには答えなかった。

ママを止めなければいけない。


「剣崎の家に行くの。お邪魔しました」


「待てよ」


帰ろうとすると腕を掴まれた。


「離して?」


黎人が掴んでいる手を振り解こうとしたけれど、痛いくらいにがっちりと掴まれていて、振り解けなかった。黎人は怖い顔をしながらもう片方の腕も掴んで引き寄せると私をソファに押し付けるように座らせた。


「理由を聞かないと行かせない」


早く行きたいのに、こんなところで押し問答をしている時間なんかない。


「お願い・・」


黎人を見上げて頼むけれど、首を横に振って私を見下ろしていた。両腕を掴んだまま前に立った黎人は説き伏せるように言った。


「オレは史明さんから頼まれたんだ。納得できるような理由じゃなきゃ行かせない。言わないなら連絡が来るまでここでおとなしくしてろ」


それはできない。

首を横に振ると黎人は私の目線に合わせるように床に膝をついた。真っ直ぐに向けられた視線から黎人の本気を感じて顔を逸らした。


「言えよ。納得する理由を教えない限り、絶対にこの手は離さない」


きっぱりと言い、今度は私が諦めの溜息をついた。



「ママを止めるの。ちゃんと話すから。だから行かせて?お願い、行かせて!」


黎人は私の目を見ながら言った


「本当だな?」


私が頷くと掴まれていた手が解かれた


「わかった。送る」




皆川家の車で剣崎の屋敷まで送ってもらいながら、今まで誰にも言えなかったことを話していた。


「ママは離婚するときに私だけを連れて家を出たの。私は剣崎家の後継者として必要だから兄様達を連れて来る事ができないんだと思っていた。--離婚して離れて暮らすようになってから、ママは私が剣崎家と接触することをとても嫌がって兄様と会った事がわかると折檻されることもあった。どうして怒られるのか理解できなかったけど、とにかくママは会ってほしくないんだと思ったの」


気持ちを落ち着ける為に深呼吸をした。


「両親が離婚したのは利奈が何才のとき?」


「10才」


黎人は私の体を引き寄せて私の頭に自分の頬を寄せた。



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