譲れないもの(4)
「ご心配ばかりおかけしましたっ」
悔し紛れに言うと、黎人はくっと喉の奥で笑った。
「まったくだな」
そう言われて、黎人に会ったら一番に言わなければいけない。と決めたことを思い出した。
「昨日はありがとうございました」
袋を持っていなかったのに何故か発作が止まった。そのお礼を言うと、急に真顔になった。
「発作が出るようになったのはいつからだ?昔からなのか?」
「冬頃から・・・いつもは一人で対処できるので大丈夫なんです」
そう言うと私の顔を見て眉をひそめた。
「利奈・・『大丈夫です』じゃないだろ。何にもわかってないんだな」
「え?大丈夫ですよ・・」
「いや、何にもわかってない」
自分の事は私が一番わかっていると思うんですけど?もう一度問い返そうと思ったが黎人は私の顔をじっと見ていた。
あまり真っ直ぐに見つめられると居心地が悪くなる・・・あんまり見ないで欲しい。
「私の顔に何かついてますか?」
そう聞くと自分の両手で私の頬を挟み込むように触れた。
「似てる」
脈絡のない言葉に呆気にとられてしまい、『触るな』と怒るのを忘れてしまった。
「え?何が?」
似てるって、どこが?誰に?
唐突に似ていると言われて軽く混乱している。私のどこを見て誰と比べているの?
「ここだよ」
そう言い、親指で目元をなぞった。
「目元が漣より史明さんに似ている」
吃驚して身体が反応してしまった。
「なんで・・?」
小さい頃から兄様達に似ていると言われる事は少なくて、それでもどちらかといえば漣兄様よりは史兄様に似ていると言われる。彼は私が剣崎の娘だという事を知ったのだろうか?漣兄様に保健室での事を話した?
さっき剣崎家の運転手に言った言葉を思い出した。あれは知っていないと言えない台詞だった・・・気をとられていて大事なところに気付かなかった。
「そんなに怯えなくてもいいだろ・・・誰にも言ってないから安心しろ」
私の頬に触れていた手は私の肩をつかんで自分に引き寄せた。もう一度「漣には言ってないから」と言いなだめるように背中を撫でた。
やっぱり私が剣崎の娘だって知ってるんだ。・・でも、言ってない?漣兄様に話していないの?
「どうして?」
言ってないって、それは漣兄様に発作の事も黙ってくれるっていうこと?
本気かどうかを見極めたくて黎人の目をじっと見ると、彼も私を見ていた。
「どうしてだと思う?」
さっきから人の質問に全然答えてくれない。結局、何が言いたいの?
その言葉を信じてもいいの?
考えを読もうと思って観察するけど黎人が何を考えているのか・・その表情からは何もわからなかった。