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譲れないもの(3)

保健室で昨日寝ていた近くを含めて、ベッドに敷かれているシーツまで剥がして捜したけれど私の携帯は見つからなかった。

諦めて携帯ショップで紛失の手続きをした方が安心できるのかも。

がっかりしながら教室に戻るとホームルームは終わっていて、私は鞄を持ってまた教室を出た


携帯の次の優先順位にある、黎人への口止めのお願い。それをどうしようかと考えて気が重くなった。

黎人は漣兄様と同じクラス・・教室まで行くのは躊躇われる。黎人と話をしているところに兄様が鉢合わせたらと考えると何だか恐ろしい。


あの男が行きそうなところ・・・そうだ、保健の竹本先生に言付けを頼めばいいんだ!

いいことを思いついた私は早足で保健室へ向かった。



「うそ・・」


保健室の扉は施錠されていた。席を外しているだけかもしれないと思い、この場で少しの間待ってみたが帰ってくる様子はなかった。

せめて、扉だけでも開いていれば先生宛てにメモを残すことだってできたのに

・・・これは人を頼らず自分で何とかしろという事?


今日はもう諦めて帰ろうかな・・・


「おい、扉に向かって何をブツブツ言ってんだよ?気持ち悪い奴だな」


声のする方を見れば、腕を組んで呆れたようにこちらを見ている黎人がいた。


「なんでここにいるの?」


「あそこから利奈が見えたから」


そう言い、親指で廊下の窓の外を指し示した。向かいに建っているのは3年生の教室がある校舎だ。私が見えたからわざわざここに来たの?


「保健室に用事か?」


「皆川先輩に聞きたいことがあったんです。それで竹本先生に伝言をお願いしようと思って・・」


伝言を頼む手間とこちらから行く手間が省けて助かった。と思い正直に言うと、黎人は組んでいた腕を解いて私を見た。


「オレもおまえに確かめたいことがあったんだよ」


ニヤリと笑ったその顔に身の危険を感じたのは気のせい?思わず後ずさると、


「来い」


そう言い私の腕を引いた。


「ちょっと・・皆川先輩?私の用事は立ち話で十分なんですけど!?」


私の用事は、私の携帯を見かけたかどうかと発作の事を口止めしたいだけだから!妖しい笑みを浮かべる黎人について行くなんて危険を冒したくはない。なんといっても、この男には前科がある。


「オレの方はそれじゃ都合が悪いんだ。・・って言っても都合が悪くなるのはおまえだけどな」


黎人は私の腕をつかんだまま歩いた。


「都合が悪いってなんですか?ちょっと、放して!」


「うるさい。早く来い」


そうだ、この男は人の話を聞かないオレ様だった。今朝、香織に話したかった腹立ちが沸々と蘇ってくる。


手を放して。と言っても放してもらえず、腕を引かれたまま玄関を出ると、車が寄せられた。普通は校門の近くへ車を迎えに来させるのに、オレ様黎人は靴入れのある生徒用玄関の前に車を横付けさせた。


「皆川先輩?」


私が戸惑っていると後ろから人が走ってきた。


「利奈様!」


私の名前を呼んで走ってきたのは剣崎家の運転手だった。


「利奈様!お迎えにあがりました」


黎人は後部座席の扉を開くと、私を車に押し込んで運転手に向き直った。


「利奈さんを食事に誘いました。責任を持って私がお送りしますので・・・利奈さんのお父様にも皆川がお送りするとお伝え頂ければ了承して下さると思います。では失礼致します」


一方的に伝えて車のドアを閉めた。その行動に唖然として後ろを振り返ると呆然と立っている運転手・・・


前と後ろを隔てているガラスが少し下がり運転手が遠慮がちに聞いた。


「よろしいのですか?黎人様」


「早く行って」


涼しい顔をしてそう言う黎人に苛立ちをぶつけた。


「さっきから何を勝手な事ばかり言ってるんですか!!」


人の話は聞かないし、強引すぎるし!どんだけオレ様なのよ!?

私が声を荒げても、平然と私を見て口を開いた。


「おまえに用事があるって言っただろ?・・・ムッとしてんじゃねぇよ」


楽しそうに私の頬をむにゅっとつまむ。口の悪い男・・・



「傷、治ってきたな・・・」


優しい口調で言い、殆ど目立たなくなった頬のひっかき傷を親指で撫でた。


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