放たれるコトバ (8)
「先生って学校の保健医の先生と似ている。年も近そうだし」
「え?名前なんていうの」
「竹本先生」
う~ん。と顎に手を当てて考え込み、口を開いた。
「竹本ね・・・後輩かもしれない」
「そうなの?」
「T大の向井様を覚えていますか?って聞いてみて」
2人で笑っていると、自動ドアが開く音がして史兄様が入ってきた。
「先生、おはようございます」
「史明君おはよう・・・そんなに心配しなくても利奈ちゃんは大丈夫だよ。お腹が空いたみたいだから何か食べさせてあげてね」
史兄様は先生に挨拶をして私を車に乗せた。
「利奈、携帯はどうした?連絡がつかなくて心配したんだぞ」
携帯・・・?
そういえば見ていない。携帯はどこにいったのだろう?
制服のポケットにも入っていなかった・・・鞄を捜したけど入っていない。
「利奈?」
兄様は私を見下ろしていた。
「史兄様、携帯がない・・・」
「え?」
「保健室に落としたのかな」
どうしよう?と兄様の顔を見上げた。
「保健室で携帯を使ったのか?それが最後?」
こくんと頷いた。あのとき、ママと話していて発作が出て・・・
「利奈の携帯は電源が落とされている・・・」
思い出して、顔が赤くなるのがわかった。
発作が起きて袋が無くてパニックになりそうになったとき、
あのキス魔が目の前にいて・・・何故か発作が治まったんだ・・・
「利奈?」
顔を赤くしている私を怪訝な顔で見ていた。
「学校で捜してみる」
ホテルで朝食を食べて一度マンションに戻ってから史兄様に学校まで送ってもらった。
「遅刻だな・・・」
「行かないよりはいいよ。史兄様」
ママは家にいなかった。
発作を起こしたのはママと電話をしている最中だったけれど、ママは変に思っただろうか?
・・・きっと、何とも思わないだろうな。
「史兄様、ありがとう」
兄様に手を振ると笑みを返してくれた。
「行っておいで」
学校に行ったらまたいつもの日常が始まる。
私とママの問題なんて、きっと世間から見たら“良くある話”でもっと辛い思いをしている人はたくさんいると思う。パパや兄様がいてくれるから私は恵まれている・・・
しっかりしなきゃ。もう一度自分に言い聞かせた。