放たれるコトバ (7)
先生は私の背中を押して椅子に座らせると、どこかに行ってすぐに戻って来た。
「喉が渇いているでしょ?」
「ありがとうございます」
先生から紅茶のペットボトルを受け取った。
私の隣に座った先生は白衣のポケットに手を入れたままにし、足を組んで顔だけを私に向けた。
普段、爽やか系を売りにしていると思っていた先生のその仕草は意外だった。
「発作が出たっていうことは、お母さんに何か言われた?」
初めて過呼吸の発作を起こしたのは先生の目の前だった。
あの時の私は、もう前のように走れない、跳べないっていう想いしかなくて・・不安で、悲しくて、悔しくて、苦しくて・・・自分が情けなかった。
「・・・誰にも言わないで」
誰にも会いたくなくて周りを拒絶して一人で閉じこもっていた。
負の感情しか浮かべることができない私に、ママが言ったその言葉は私を壊すには十分だった。
「言わないよ。・・・一応、守秘義務あるしね」
医者っぽくない軽い口調で言い、私の顔を覗き込んでニヤリと笑った。
「お母さんとは久しぶりに会った?」
「うん・・・彼の仕事の都合で日本に戻って来たんだって」
「そう・・・お母さんはどうして利奈ちゃんと一緒に暮らすんだろう?これを言うと利奈ちゃんを傷つけるけど・・・母親の義務を果たしてないよね?この状態を続ければ続けるほど、お母さんには不利な状況になると思うんだ」
先生は「紅茶を飲んで」と言い、私が握っていたペットボトルの蓋を外してくれた。
一口飲むと甘い紅茶が喉を潤した。
「ママは・・・気紛れだから」
「・・・そうだね。オレには意地になっているようにも見えるね・・」
「意地?」
先生は煙草を銜えた。火をつけずにそのまま銜えている。
「そう・・・意地」
何に対する意地?
「ママは・・・何をしたいのかな」
先生は天井を仰いで“なんだろうな~”とぼやいた。
「・・・何を考えてんだろうな?利奈ちゃんのママは・・・女は難しいな」
先生と話をしていると、
私のお腹が、ぐう。と鳴って先生は笑った。
「おなかすいた・・・」
3食以上食べてないことを思い出した。
「お腹が空いて待てないなら、すぐ近くのホテルでモーニングを食べるといいよ。ウチの病院はまだ食事の時間にならないからね」
先生が笑うから、つられて笑った。