放たれるコトバ (6) side:利奈
また頭が痛い・・・
目が覚めたら病院にいた
「おはよう、利奈」
パパが枕元の椅子に座っていて私を見て笑った。
「パパお仕事は?」
いつも忙しくて、秘書に分刻みのスケジュールを組まれているパパがここにいてくれるなんて思いもしなかった。
「終わったよ」
ここにいてくれるという事は今日の予定をキャンセルさせてしまったんだ。
「ごめんなさい」
もぞもぞと起き上ってパパに頭を下げた。
発作のことを知られてしまった。心配をかけただけではなく仕事の邪魔までしてしまった・・・・
謝ると頭を撫でてくれた。
「利奈が謝る理由はないだろう?悪いのはパパだ。もっと早く迎えに行けば良かったのに利奈を一人にしてしまった」
違うよパパ・・
パパは何回も『帰っておいで』って言ってくれたのに私がそうしなかったんだよ。悪いのは私なんだよ?
「ずっと一人で心細かっただろう?」
涙が出た。
パパが困るから泣き止もうと思ったけれどできなかった。
「っ・・パパ・・」
寂しかったの。一人で怖かった。
今まで我慢していた気持ちが溢れ出てきて涙もボロボロと溢れ出てくる。
パパは抱きしめて、背中を撫でてくれた
「利奈、パパは決めたよ」
パパを見上げると、涙を拭いてくれた
「利奈を取り戻す。・・・だから帰っておいで」
「パパ・・・私は大丈夫だよ?」
ママはどうなるの?それに・・私は兄様達が傷つくのは嫌だよ?
「もう頑張らなくていいんだよ」
止まりかけた涙がまた溢れ出てきた。涙腺が壊れてしまったのかもしれない。
小さな子供のように声をあげて泣きじゃくった。
―――
―――
次に目を覚ましたときにパパはいなかった。
ベッドから起き上がり、腕に刺さっていた点滴の針を抜いて窓から外を見ると、東の空に浮かんでいる雲が赤く染まっていた。
昨日は1日のほとんどを眠っていたんだ
ここの病院には前も入院していた事がある。病室に備え付けられているシャワールームに入って鏡を見た
予想通り、泣きすぎて酷い顔。充血している眼に腫れぼったい瞼。
私は入院用の服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びた。
どうせ前髪が長いから見えないだろう。顔のことは早々に諦めて制服に着替え時計を見ると学校に行くには随分と早い時間だった。
しっかりしなきゃ、と自分に言い聞かせて鞄を持って病室を出た。
ナースステーションを覗いたけれど、巡回にでも行っているのか看護師がいなかった。仕方がないのでそのまま下のフロアに降りると喫煙所で煙草を吸っている医師がいた。
あの先生に、「帰ります」って言おう。そう思って煙草を吸い終わるのを待っていると先生は私に気付いて駆け寄ってきた。
駆け寄ってきたのは私の主治医だった。
「利奈ちゃん、何してるの?点滴はまだ終わらないはずだけど?」
勝手に点滴を外してきた私に、少し呆れた用な口調で言い私の顔を覗き込む
「あれは何の点滴だったんですか?」
「食事をしていないって聞いたから栄養剤だよ」
先生の嘘つき・・栄養剤であんなに眠れるわけないでしょう?『過呼吸が原因では死なないから大丈夫!』って説明してくれたのは先生なのに・・・
鞄を持ち直して先生の顔を見た。顔が『困った子だ』って言っている。
「帰ります」
「お父さんに連絡してからにしてもらえる?」
ダメだよ、先生。
今はママが家に帰ってきているんだから、私が家に帰らなかったらママがまた怒るよ。
「勝手に帰ったとお話して頂いて構いません」
「利奈ちゃん・・・相変わらず頑固だねぇ・・・」
先生は笑って頭を撫でた。
「少し話そうか」