遅い入学試験 (2)
ウチは母子家庭で、両親は離婚し私はママに引き取られた。二人の兄はパパに引き取られて離れて暮らしている。
私が成人するまでパパが負担してくれている養育費で生活しなければいけない。
パパは確かにお金持ちかもしれないけど、私は離婚したママに引き取られたわけだし…甘えていいレベルの学校じゃないと思う
「無理じゃない。父さんが理事をつとめているから心配いらない」
そういう問題じゃなくて!
「違うの…」
パパのお金に頼らないと生活していけないのにママは仕事らしい仕事もしていなくて、毎日遊び歩いているような状態だ。
ただでさえ申し訳ないと思うのに、桃陵学園に通ったら前に通っていた学校以上にお金がかかる。これ以上パパの負担になりたくない
「父さんは子供がお金の事を心配することは良くないと考えていると思うけどな。もっと甘えて欲しいと思っていると思うよ」
言葉にしなくても通じてしまった
「でも」
「でも?お前は父さんの娘じゃないのか?父親が娘のことを心配するのはおかしい?」
首を横に振った
「なら、わかるな?自分の目の届くところに置いておきたい親心が」
…それはちょっとイヤ…目の届くところって、お兄さま、アナタの目の届くところっていう意味なんじゃないの?と疑ってしまうのは思い込みじゃないと思う
「利奈、学園についたからこの話はもう終わり。いいね?」
男のくせに女の人よりもキレイな顔でにっこりと微笑みかけられる
若干、笑みに黒いものが混じっていたような気がするけれど…昔からその笑みを向けられると逆らえない
「これが高等部」
卒業生である兄様はスタスタと先を歩き、私を校長室へと連れて行った
校長室に入るとロマンスグレーな校長先生が穏やかな笑みを浮かべて出迎えてくれた
隣には教頭先生らしき人が立っていた
「妹の利奈です」
「松本利奈です」
頭を下げた
「史明君に似ているね」
そうかな?初めて言われた
「この学園は生徒が大らかに過ごすことができる学園だ。君ものびのびと学園生活を楽しんで欲しい」
のびのびという名の放任主義ですか?
教頭先生の説明を受けてその言葉が浮かんだ
「君のお兄さんたちものびのびと過ごして来たからね。君も充実した生活を送ることを願いますよ」
校長先生の話にチラリと兄様を見ると苦笑いを返していた
優等生タイプの史兄様がのびのびと過ごして来たとはあまり想像つかないけれど・・もう一人の次兄はのびのびと過ごす様が簡単に想像できる。
「アイツは相変わらず好き勝手にやっているようですね?」
「それほどでもありませんよ」
校長先生は大らかな人らしい。
私はこの学園で目立つことなく静かに過ごしたいと思ったので次兄の事はスルーすることに決めた。
一通り学園の説明を受けて、形だけの入学試験を受けた。
試験を受ける時に入学は決定しているが、クラス決めを行うための基準になる主要教科の点数を知りたいと説明を受けた。
卒業生の兄様は校長先生達とのんびりお茶を飲んでいたようで試験が終わると私をマンションまで送ってくれた。
「今、制服を作らせているから。出来上がったら届けさせる。教科書とか必要なものも届けさせるから入学式までの1週間で学校に行かなかった分の復習をしていなさい」
恐ろしい事を笑顔でサラリと言った兄は私を車から降ろし、帰って行った
この言いつけを守らないでのんびり過ごそうかと思ったが、高校に入学した後の試験でひどい点数を取ったら恐ろしいお仕置きが待っているに違いない。
長兄のあのオトコは優しい顔をしてやることがたまにえげつない。長い付き合いでよく知っている。
私はコツコツと真面目に過ごすことにした。