動き出す・・・ (3)
美化委員会と書かれた部屋に連れて来られて、黎人はカチャリと鍵を閉めた。
「座れよ」
部屋には会議用の大きなラウンドテーブルがあり、私は椅子に腰を掛けた。
「利奈、水でいいか?」
「はい」
黎人はペットボトルの蓋を外して私の目の前に置いた。
その仕草を、慣れてるな・・なんて呑気に眺めていると、私の隣に座りブレザーのポケットから制服のリボンを取り出して私に渡した。
「机の下に落ちてた」
「ありがとうございます」
リボンを受け取り、ブラウスの襟元にリボンを通しながら、
どうやってこの場をきり抜けようかと考えた。
「朝に保健室に来たのは利奈、お前か?」
リボンを結びながら答えた。
鍵をかけられたこの部屋からどうやって逃げようか?
「そうですよ」
結び終えて、顔を上げると黎人の手が目の前にあり、
彼の指は私の頬に触れ、ひっかかれた傷の下を親指で撫でた。
「・・・誰にやられた?」
私の目をまっすぐに見るそれは真剣で、なぜそんなに熱い視線を送られるのか分からなかった。
「爪の長い女・・・」
「それは知ってる。漣のファンクラブか?」
漣兄様に話をされると面倒なので私は首を横に振った。
「わからない」
頬を撫でた指は首に掛かっているチェーンをつかみリングを服の外に出した。
「何故自分のリングを指にはめて相手のリングを持っている?交換したんじゃないのか」
目を細めて私を見た。今度は苛立っているように見える。
「相手がそれでもいいと思っているの。それじゃダメ?」
射るような眼差し・・・
この人は私をどうしたいのだろう?
『面白そうな女を見つけた』
その目的を果たしたのだから、それでいいでしょう?
――早く解放してほしい。
「その2つのリングは・・・誰のものだ?」
「大切な人達」
私は彼から視線を外し水を飲んだ。
「クラブに来ないのは?オレに見つかりたくないからか」
私はクスリと笑った。
「質問ばかりなんですね」
尚も鋭い眼差しのまま私を見据えている。
負けたくないから、私もまっすぐと見返した。
「答えろよ」
揺らぐことのない視線に、仕方がないから本当の理由を教えることにする
「夜遊びをしているのを兄に見つかって、夜は外出禁止になったから・・・」
眼差しが少し和らいだので
「帰っていいですか?皆川先輩。“リサ”を見つけたんだからもういいですよね」
試しにそう聞いたら、冷たい答えが返ってきた。
「まだだ」
そう言うと、唐突に私の首の後ろに手を回しグイッと引き寄せた。




