遅い入学試験 (1)
眠い…非常に眠い
ママから電話があった後にマンションまで帰って来たのはいいけれど話の内容が気になって眠れなかった。
今は3月の下旬。
入試のシーズンは終わったのに今から入学できる学校なんてあるの?
どこの学校もあと1週間程で入学式なのに…
しかも、私は中学校の終わり間際に登校拒否状態になり、エスカレーター式に進級できる学校へ通っていたにもかかわらず、進級試験も受けずに卒業式にすら出席しなかった
私を引き受けてくれる奇特な学校なんてあるのだろうか?
同じことを何度も考えていると、携帯が鳴り、相手も確認しないで出た
「もしもし」
『こら、不良娘…』
低くて落ち着いた声を聞いて笑みが浮かんだ
『聞いてるの?』
電話の相手は大好きな長兄だった
「聞いてます」
怒らせるととても怖いけれど基本的に優しい兄が大好きだった。
『マンションの下に着くから降りてきなさい』
「何を着ていけばいい?」
『この前買ったワンピース。髪は軽く巻いて』
私は兄好みのお嬢様風に自分を仕上げた。
マンションの下のエントランスに降りると車の後部座席から兄が降りてきた
「おはよう、史兄…」
最後まで言わないうちに鼻をつままれた
「のんきにおはようじゃないだろ?家に帰ってきたのは何時だ?」
今度はむにっと頬をつままれた
「いひゃい…」
そんなに頬を引っ張られたら答えられない。
恨めしい思いで兄様を見上げれば冷ややかに見下ろされた
「お前はいくつだ?」
「…15…いった~い」
いくつだと聞くから正直に言ったらさっきよりも強い力で頬をつままれた
「まったく…その年でクラブに出入りするなんて」
手でつままれた頬を押さえた
私が夜遅くにふらついていたことや、出入りしていた場所までお見通しだったらしい。
今度遊びに行くときは携帯を置いて行こうと心の中で思った。
「乗りなさい」
後部座席に座らされ、隣には兄様が座った
車が走り出して私は気になっていたことを聞いた
「私が進学する学校ってドコ?」
「桃陵」
トウリョウ?
私が聞こえたトウリョウとは超がつくお金持ちの子供が通う学校で有名な学校名と同じに聞こえたんだけど?
「冗談でしょ?」
聞き間違いかと思いもう一度聞いてみた。
「冗談じゃないよ。ト・ウ・リョ・ウ・ガクエン」
くっきり、はっきりと答えが返ってきた。
「帰る」
信号待ちをしていた車のドアを開けようとしたら隣から羽交い絞めにされた
「離してっ」
行きたくない!と頑張った
「いい加減にしなさい」
グイッと引っ張られ、抱えられた
「無理」
「無理じゃない」
「だって桃陵でしょう?普通の家の子が通える学校じゃないよ」
制服だけでも普通の学校の何倍もかかる聞いている。通う生徒は良家の子女ばかりで、一般家庭の子供は肩身が狭くて通えない学校だ。