アイツノサガシモノ (2)
「ハアッ・・・」
危なかった。
硬式テニスのボールを顔面で受けるところだった。
私はラケットを地面につけて少し体重をかけた。
ちょっと限界かも・・・左足が痙攣している。
「香織・・・肩貸してくれる?ムキになって無理しちゃった」
ペタンと地面に座り込んだ私に香織は駆け寄ってきた。
「利奈!大丈夫?足が痛むの?」
相手コートからネットを飛び越えて兄様が走ってきた。
「大丈夫か?」
「痙攣しているだけだから・・・休めば治ります」
兄様は怪我をしたほうの足を手で押さえた。
「保健室に行くぞ」
そう言って私に向かって手を伸ばした。
「痙攣しているなら歩けないだろ?」
ぐいっと手を引き私を立ち上がらせた。
それは困る!それだけはやめて!
「大丈夫ですから・・・先輩は授業を受けて下さい」
兄様に睨まれた。
「お前は・・・こんなときにまで!」
小さく言い私を抱き上げた。
「・・・悪いけど、彼女の着替えを持ってきてくれないかな」
兄様は香織に言い私を抱き上げたまま歩き出した。
「はい!」
普段の“漣兄様”の顔をした剣崎漣がいた。
「ごめん、利奈。無茶をさせた」
歩きながら兄様が言った。
「・・・体が鈍っているんだよ。兄様が悪いわけじゃないよ」
「兄貴に怒られるな」
兄様はため息をついた。
「大丈夫だよ。史兄様優しいから」
「それは利奈限定だろ?お前は知らないんだよ。剣崎伝説を・・・」
「?」
「知らない方が幸せ」
なんのことだろう?
保健室に行くと保健医は席を外していて、私は兄様に足を冷やしてもらった。
私の目の前に漣兄様の頭があった。
小さい頃、お転婆だった私はしょっちゅう傷を作っていた。
いつも兄様達が傷の手当てをしてくれていた。何だか昔に戻ったみたい。
「念のために病院に行った方がいい。兄貴に連絡するから連れて行ってもらえよ」
「少し休ませれば大丈夫だよ?」
その時、ドアがノックされた。
「利奈・・・大丈夫?」
香織が顔を出した。制服を持ってきてくれたようだ。
「ありがとう、香織」
香織は私の顔を覗き込み心配そうに眉をひそめた。
「足・・・大丈夫?」
「うん、大丈夫!心配かけてごめんね」
香織は言った。
「怪我した足を痛めたら大変だと思って」