王子のハカリゴト (3)
教室に戻ってからも大騒ぎだった。
「松本さん、すごいじゃない!」
群がってくるクラスメイトに愛想笑いを返した。
兄様にも困ったものだけど、 “アキ” が本当にここの生徒だった事に戸惑っていた。
「今日は漣さまが迎えに来るのよね?1年の校舎まで来てくださるなんて夢みたい!」
「そうかな・・・剣崎先輩なんて恐れおおいよ」
香織が心配そうに声をかけてきた。
「利奈・・・どうするの?剣崎先輩の車で一緒に帰ったりしたらファンクラブが怒り狂うよ」
「興味ないし、迷惑」
そうは言ったものの、ファンクラブに目をつけられたら面倒なことになりそうだ。
私は机に突っ伏したまま、目だけを香織に向けた。
「――私、終わったら逃げるから」
「え?剣崎先輩は迎えに来るって言ってなかった?」
きょとん、と香織は問い返す。その仕草も可愛らしい。
「逃げる。あんなのと一緒に帰るなんて・・・」
香織はポカンと私を見た。
「利奈、あんなのって・・・」
しまった、口が滑った。と思ったがもう遅かった。
「あはは!利奈って面白い!」
香織は楽しそうに笑い出した。
「利奈、一応あの人は高等部1のアイドルだよ?・・・あんなのって、あんなのって・・うふふおかしい」
笑い事じゃないんだってば、タチが悪いのよ?あの男。
さっきだって私が困っているあの状況を楽しんでたんだから!
最後の授業を受けていて図書委員会の仕事があることを思い出して、
断る口実ができたとほっとした。
ホームルームが終わり廊下へ出ると、それは、扉の向こうに立っていた。
「迎えにきたよ」
にっこり笑うキラキラ王子・・・それを見つけて飛び交う黄色い声。
「剣崎先輩・・・私委員会があるので・・・せっかくなんですが・・・」
もっともらしい言い訳を切り出した。
「あ、図書委員?ウチのクラスの山科と一緒でしょ?今日は用事があるから断っておいたよ」
にっこり笑って交わされた。
「でも、仕事ですから」
「山科も事情を話したらわかってくれたから大丈夫。それより、早く行こう?」
腕をがっしりつかまれてずるずると引きずられた。
・・・人の話聞いてよね。
「・・・いい加減に諦めたら?」
抵抗していると冷たい声が降ってきた。
「ヤダ!意地悪!」
昇降口で靴を履き替えさせられた途端、ふわっと体が浮いた。
「きゃっ」
肩に担ぎ上げられた。
「ちょっと!下ろして!!」
「暴れると落ちるよ」
私は担がれたまま、昇降口から校門まで運ばれた。
下校途中の生徒たちは何事かと私達を見ていた。