王子のハカリゴト (2)
落ちる!!
ぎゅっと目を閉じると、私の腰がぐっと引き寄せられて誰かの体に密着した。
「危ないな・・・」
その声を聞いて顔を上げられなかった。
「「「きゃーっ!」」」
黄色い声が上がる。私は俯いたままだった。
「ごめんね、前を向いてなかった・・・」
私のウエストに長い腕を巻きつけて自分に引き寄せているこの男
―――キラキラ王子だよ。
“尋問する”というから来るだろうと思っていたが、こんな形で来るとは思わなかった。
表面上“他人”の私たち。
漣兄様は自分の立場を嫌というほど理解していて、私が望んでいる“私の立場”に納得していないからこそのこの行動。
私を自分の側に引き込んでそばに置こうとしてくる。
だから、目立ちたくないって言ってるじゃない!
一瞬、その思いを視線に込めて彼の眼を見るけれど、甘やかな眼差しを向けられて私は目を逸らしてしまった。
・・・妹にそういう視線を向けないで欲しい。
「あの、大丈夫です・・・すみませんでした」
私が言うと、漣兄様は私を床に下ろして顔を覗き込んだ
「本当に?怪我はない?」
心配そうな顔をしているけれど、口元は笑いを堪えているのがバレバレだ。
「大丈夫です!」
私は床に散らばった教科書を拾った。
「電子辞書・・・壊れちゃったね。お詫びに新しいのを買わせて?」
小首を傾げて問う。
その仕草に周囲から感嘆のため息が聞こえた。
確かに、彼から手渡された電子辞書は落とした衝撃で角が割れて欠けていた。
「いえ!大丈夫です」
この場は全力で断る!
しかし、王子の仮面をかぶったこの男は私の二の腕をつかんで離さない。
「ダメだよ。ねぇ、名前は?」
少し悲しそうに私の顔を見る。
この状況を楽しんでいるらしい。
「松本です・・・」
私の顔を心配そうに覗き込む。
・・・兄様、その表情で何人の女の子を腰砕けにしてきましたか?
「放課後、迎えに行くから・・・ね?」
また私の顔を覗き込み、耳元で囁いた
“逃げるなよ・・・”
一瞬口角が上がり、妖しく笑った。
「漣!下級生が怯えてるぞ?解放してやれよ」
いや、怯えているのではなく怒ってるんですけど・・
兄様の肩越しにチラッと見えた男の人・・・
とっさに彼の視界に入らないように兄様の方に身体を寄せた。
「1年生をからかって遊ぶなよ、かわいそうだろ」
「うるさいよ黎人・・・じゃあ松本さん、放課後にね」
キラキラ王子は私の頬を撫でて行ってしまった。
周りでおこる黄色い歓声を無視して私は荷物を持ち直して階段を降りた。
さっき兄様に声をかけたあいつ・・・兄様に“アキト”と呼ばれた人
――昨日の“アキ”だ。