ミント風味な保護者 (2)
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病院でレントゲンやCTの検査をされた。
「異常は認められません。体育の授業を受けても大丈夫です。・・・辛いリハビリを頑張りましたね」
「先生、ありがとうございました」
兄様は私に先に廊下へ出るように言った。
私は半年前、学校の階段から落ちて鎖骨を骨折し、左足の靭帯を切った。
私の足にはまだ手術をした時の金属が入っている。いずれ除去する手術をしなければならないだろう・・
怪我をしたのは陸上部に所属している私にとって、中学生最後の記録会直前だった。
放課後、忘れ物をした私は教室に戻り、帰る途中で階段から落ちて・・・
否、
――突き落とされた――
その表現が正しい。
搬送された病院で、
医師や家族が何度も事故の状況を確認してきた。
その都度私は“急いで部活に戻ろうとして、階段を踏み外して落ちた”と言い張った。
表向きは事故として処理をした。
納得していない兄様達は今でも突き落とした犯人を言うように迫る。
犯人はわかっていた。同級生の女2人・・・
彼女達には好きな人がいたんだ。
陸上部でいつも一緒に練習していた彼。
私は彼に恋愛感情を持っていなかったけれど彼女たちの目にはそう映らなかった。
彼は私にとって大切な友達で尊敬できる陸上選手だった。
“やっかみと嫉妬”それが動機で・・・私は突き落とされた。
“女よりも男の嫉妬の方が怖い”という話を大人から聞いたことがあるが、
私は嫉妬にとりつかれた女だって十分恐ろしいと思う。
『少し人気があるからってつけあがるな』
落ちる前に聞いた言葉だ。
少なくとも私は、自分の言動で彼女達にくだらない衝動を起こさせたらしい。
彼女たちを庇うというよりも、私が突き落とされた事で彼に悪い影響が出るのを避けたかった。
走れなくなるのは私だけでいい。
陸上が好きな彼に走り続けて欲しかった。
手術をして入院することになり、私は学校を休んだ。
いろいろなことがイヤになり、リハビリが終わっても学校に行かないままでいたら、卒業式も終わってしまい、パパが今の学校に入学手続きをとった。
私が松本利奈である限り中途半端に目立つ事は危険なんだ。
そう悟り高校3年間は地味に生きる事に決めた。
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「利奈、ここでいいの?」
「うん、目立つからここでいい。史兄様ありがとう」
学校の手前で車から降りた。
「今度の休みに買い物に連れて行ってあげるよ」
クールミントな兄様も私にはいつも優しくしてくれる。
今日だって本当は事故の事を問い質したい筈なのに何も言わないでいてくれる。
「ありがとう兄様・・・パパに心配しないでって伝えてね?」
兄様のSPが私に頭を下げた。