スクールリング (3)
また、ここに来てしまった。
「リサ、久しぶりだな」
クラブのスタッフに声をかけられて曖昧に笑った。
「ちょっと真面目にしていたから」
スタッフは笑みを返した。
「いつものでいいか?」
「うん」
久しぶりだからここでは“リサ”と名乗っていた事を忘れていた。
しつこく名前を聞かれたときにうっかり本当の名前を言いそうになってとっさに名乗った名前だ。
「ほら」
こういうところで女が一人で飲むものではないだろうけど、私はこれが好きだった。
「ありがと」
ショットグラスが目の前に置かれ一気に喉に流し込む。
喉が焼けるようだ。
命の水
これが胸を焼く感覚を愛している
踊るわけでもなく、酒を続けて飲むわけでもなくただ、ぼんやりと人間観察をするだけ。
声をかけられても適当に流し、ボーッとしている。
あの部屋に1人でいるよりずっといい。
「さっきからぼーッとしているね、眠いの?」
隣に男が立っていた。
「眠くない」
強いアルコールで喉が焼けて声を出したら掠れて低い声になってしまっていた。
「見ない顔だよね・・・」
男の方は見ないで前を向いていた。
「そう?久しぶりに来たからかもしれないね」
男はテーブルに頬杖をついていた私の目の前に顔を出して私の顔を覗き込んだ。
「話すときは人の目を見て話しなさいって教わらなかった?」
初めて男の方を見ると、男は口角を上げてと笑った。
薄暗い店内でもハッキリと分かるくらい整った顔をしていた。
まあ、自分に自信がなければ相手の顔の前に自分の顔を至近距離で回り込ませる。なんていうことはしないのだろうけど。
「オレはアキ。君は?」
ショートの髪の毛を遊ばせていた。
甘い雰囲気の漣兄様とは正反対の人だな・・と、ぼーっとしながら思った。
「リサ」
アキ・・・ね。多分本名じゃないと思うけど
彼を無視して店の中を眺めていると、
「おまえ、つまらなくないの?」
唐突に言われた。
つまらなかったら帰ってるでしょ?と心の中で突っ込みを入れながら答えた。
「別に・・・私の事見ている方がつまらないでしょ」
アキは片眉をあげて悪戯っぽく笑った。
「別に?」
綺麗に笑う男だな、私も口角だけ上げて笑みを返した。
身長高いな・・・180位かな。
漣兄様がキラキラフェロモン垂れ流し王子ならこの人は・・・艶やかな・・・なんだろ?
まあ、いいや。
途中で考えるのをやめてペットボトルに口をつけて水を飲んだ。