想いと想いの狭間 (9)
強気な美女を見ていた兄様は、一瞬眉を顰めたけれど、すぐに表情を戻した。
「利奈、早く帰るぞ。眠いだろ?」
「漣兄様?」
何故か私に王子様な笑みを向けて、私をここから連れ出そうとしていると強気な美女と目が合った。
「…やっぱり来なくていいわ」
携帯をバックに閉まった美女はカツカツとヒールを鳴らしながら私と兄様の前に立つと、艶やかに笑った。
この人、綺麗…
「あら、漣君、久しぶりね」
思わず見とれていると、美人が兄様の名前を呼んだ。
「どうも。美姫さん」
この美女と兄様って知り合いなの?
「帰国してるって聞いてたけど…アイツのこと、相変わらず振り回してるんだ?」
兄様が笑うと、美女も笑った
「当然でしょ。それより、漣君の腕の中にいるその女の子に話があるの」
私?
「何の話?」
「漣君の彼女?…悪いことは言わないからこの男とは別れなさい?」
言い聞かせるように言う美女、この人、何者?
首を捻って兄様を見ると、口角を上げて、王子様らしくない笑みを浮かべていた。
「美姫さんの天敵は兄貴だろ、オレにまで絡まないでよ」
史兄様とも知り合いなんだ…
訳が分からず美女と兄様を交互に見ていたら、美女がニッコリと笑った
「ずっと捜してたのよ。やっと会えた」
その言葉に首を捻った。こんな美女に会っていたら忘れないと思うんだけど…どこで会った?
「利奈、美姫さんと知り合い?」
漣兄様に言われて、目で訴えてみた。
覚えてないの、どうしよう兄様…私、失礼なことしちゃってる?
「お見舞に来てくれたって聞いたのよ、私もあなたに御礼がしたかったの」
そう言われてやっと思い当たる人がいた。
「…もしかして、あの時の?」
「思い出してくれた?あなたのこと捜してたの」
雅樹と買い物に行った時に歩道で具合が悪くなって救急車を呼んだ人だ!納得して一人で頷いていると、漣兄様が、私の顔をぐいっと自分に向けた。
「利奈、一人で納得してないで分かるように説明して」
兄様、顔が近過ぎる!この距離は妹との距離じゃないよ
「漣君、いつまでくっついてるのよ!早く離れなさい!」
美女が指を指して言うと、兄様は私の首に両腕を絡めた。
「女豹には利奈を渡せないな」
「なんですって!?この兄弟って本当に腹が立つわね!!化けの皮を剥がしてやりたくなるわ」
「スミマセン…」
迫力に押されてつい謝ってしまった。
この人、怒ると怖い…
「あら、あなたが謝る必要はないのよ?悪いのは剣崎兄弟なんですから。あなたもこんなのに付き纏われて可哀想に…」
兄様達と美女に何があったの?
「私、あなたに御礼がしたくて捜していたのよ。名前も効かないで帰してしまったでしょう?…利奈ちゃんていうのね?可愛いわ~」
「駄目だって美姫さん」
美女が私に手を伸ばし、漣兄様が軽く手を払うと、キッと兄様を睨んで「いい加減にして!」と怒っている。
「何なんだよこの人だかりは?騒ぎになるから来るなって言っただろ!?」
良く知っている声がしたと思ったら、群がっていた人達が左右に別れて道ができた。
不機嫌そうにこちらに向かって歩いてくる彼に兄様が「黎人、遅い」そう言うと、美女も振り返った。
「なんでこんな大騒ぎになってるんだよ」
「私の恩人を見つけたのよ、あんたはどこに目をつけているのよ?使えない男ね」
黎人に強気発言できるなんて凄い。
「うるせぇな、髪の長い桃陵生だけで捜すのがどんなに大変か分かんねーのかよ?」
「S町から救急車を呼んだのよ?」
その言葉に聞き覚えがあった。前に黎人から聞かれたことがあった。アレってこの事?…でも、あの時この人が蹲っていたのはS町じゃない。
どういうこと?
「漣と利奈まで巻き込んで…見つけたって、どこにいるんだよ」
ぐいっと手を引かれて美女に引き寄せられて抱きしめられた。
「この子よ!」
「はあっ!?」
「おまえ…利奈に聞いたって言ってなかったか?」
何がどうなってるの?
「兄様、何のこと?」
「えっ?兄様?兄様って漣君のこと?」
凄く驚かれて、こっちが驚いた。
「そうだよ、姉貴、利奈は史明さんと漣の妹」
姉貴!?
「利奈ちゃん、驚いた?ふふっ可愛いわ~」
ああ、もう混乱してきた。何がどうなってるの?
「…利奈、最初から説明して」
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