想いと想いの狭間 (8)
欲しい答えとは違う言葉に戸惑っていると
「利奈が気にするような奴じゃない」
そう言って私の首筋に顔を埋めた。
昨日、上級生が言っていた事をふいに思い出した。
「黎人は…女の人に本気にならないの?…キス、しないの?」
そう言うと、顔を上げてチュッとリップ音を立ててキスをした。
「不安にさせていたのは…キスが足らなかったか?」
「黎人って、やっぱり」
また、キスをすると顔を上げて笑っていた。
「…キス魔」
「利奈にはな…オレは利奈が足りない。不安にさせるな」
また唇が重なった。
ねぇ、私は彼女でいいんだよね?
「…それで?史明さんの納得する点数って何点なんだよ」
「全教科75点以上。主要教科は80点以上」
電話にも出ずに、メールの返信もしなかった。私にとっては出来なかった事情を説明すると、黎人は眉を顰めていた
「数学が苦手なんだろ」
「…だから二日間徹夜状態なんです」
本当に、もう少し頭の中身が似れば良かったのに…どうして似なかったんだろう?
「別荘って…」
チラリと黎人を見上げると「軽井沢か?それとも…」漣兄様と行ったのか幾つかある地名をブツブツと上げていた。
「国内ならいいけど…海外だったら完全に監禁状態だよな。お嬢様も大変だな」
「怖い事言わないで!?必死に頑張ってるんだから」
史兄様の本当の怖さを知らないから呑気な事を言ってられるんだから!
「それで?肝心な事は聞けたの?」
「…」
気にするような奴じゃない。それで終わってしまった…
「キスで誤魔化されちゃったのね…利奈ちゃん、お子様ね?」
流し目で見下ろされ、フフッと笑われて…返す言葉が見つからない。
「取り敢えず試験が終わってからゆっくり話をしたら?」
「…はい」
・・――――
――――-・・
試験が終わった。
結果はどうあれ、全部終わり!!
「やっと終わったよ~」
「良かったね」
机の上に突っ伏しているとクスクスと香織に笑われた。
「これでやっと自分の部屋で眠れる」
「え?」
史兄様のしごきから解放されて今日はひたすら眠りたい!
「香織、早く帰ろ!」
何か言いたそうな香織を急かして教室を出ると廊下がザワザワと騒がしかった。
「何だろうね」
漣兄様が女の子に手を振ってるんじゃないの?
人だかりの脇を通り過ぎようとすると女の人の声がした。
「いいじゃない、卒業生なんですもの」
「いや、それは分かるけど突然というのは困ります!」
人だかりの中心にいたのはかなりの美人で、先生を相手に揉めている様子だった。
「人を捜してるの、邪魔しないで下さる?」
横目に見ながら通り過ぎようとすると、フワッと首に腕が絡みついた。
「帰るよ」
重い…寄りかからないで?
「離して」
「やだ、何を見てるんだ?利奈」
首に腕が絡まったまま漣兄様を見ると、兄様も美女と先生のやり取りを見ていた。
美女は先生の訴えを無視すると、携帯を取り出して電話をかけ始めた。
「今学校に来てるの。早く来てーーーー何言ってるのよ、アンタがアテにならないから私が直接来たんじゃない。いいからさっさと来なさいよ」
この強気な口調、聞き覚えがある…
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