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想いと想いの狭間  (7)

「……ちょっと、利奈、大丈夫?」


香織に顔を覗き込まれたけれど、頷いて返事をするだけで精一杯


「凄い顔だけど…何があったの?」


自分の頬を両手で覆って溜息をついた。香織が凄い顔って言うのも納得できる。

二日間ほとんど寝ていない自分の顔を見て驚いた。漣兄様にまで心配されてしまう位酷い顔をしている。


「史兄様がね…――私、次の体育の授業休むわ」


『全教科でオレの納得のいく点数が取れなかったら、夏休みは別荘に閉じ込めるぞ』

堂々と軟禁宣言……笑顔で言ってのけるところが、剣崎史明らしいところかもしれないけれど、我が兄ながら怖すぎる。


長兄としての責任なのか、ただのシスコンなのか…私を苛めて楽しいのか?

全部だったらどうしよう、立ち直れないかもしれない。


「利奈!?」


「ごめん、後で話す。今はとにかく…眠いの」


史兄様からもらった鍵を握りしめながら香織に手を振って教室を出た。





“開かずの間”のソファに倒れ込むように横になり、目を閉じるとすぐに眠れた。




「…奈、――きろ」


やっと眠れたのに、邪魔される。

部屋の鍵を閉め忘れたんだろうか…私って間抜けだ。


「……や、だ」


耳元で「起きろ」と囁く声に、ぎゅっと目を閉じて抗議した。

私は眠いの。この時間は寝るって決めてるの。


「襲うぞ」


やだ、寝る。邪魔しないで。

睡魔に襲われたまま、ウトウトと深い眠りに入って行こうとしたら、布が擦れる音がして、襟元がひやりと涼しくなった。


「…」


私がこの二日間ほとんど寝てないのを知っているのにこんな嫌がらせをするのは漣兄様?

耳元で『兄様の意地悪!』そう言ってやろうと、顔が近くに寄せられるのを待ち伏せした。


「襲っていいんだな」


これは兄様じゃない。この声は…

耳元で囁かれた声に目を開けると、愛しい筈の顔が目の前にあって『黎人?』と呼びかけた言葉は唇に呑み込まれた。


深くて激しいキスに嫌でも目が覚めて、自分が置かれている状況を知って焦った。

ソファに横になっていた私は、顔の脇に手をついている黎人に囲われていて、逃げ場がない状態。しかも制服のリボンを解かれて、ボタンを外されていて、宣言通り襲われかけている。


「何も言わないでいなくなるな。昨日も一昨日も電話にも出ないし、メールを送っても返事は帰ってこない…何が気に入らなかったんだよ」


それは、史兄様の部屋でずっと勉強をさせられていたから。

でも、気に入らないとか、そういう問題じゃないんだよ…

黎人にとって、私は何?


「利奈、黙ってないで何か言え」


怒っている黎人に泣きたくなったけれど、唇を噛んで涙を堪えた。


「傷になる」


指で唇に触れて、噛むのを止めさせると、強く噛んでいたところを親指で撫

でていた。


「何がおまえを不安にさせている?」


分からないの?

黎人から顔を背けると、顎を掴まれて動けないように押さえられた。


唇が触れそうな距離で、私は思い切って口を開いた。


「電話の(ひと)は、誰?」


「電話?」


「携帯に電話が来て、迎えに行った人だよ。…忘れたの?」


少しの間考えていたけれど、やがて「ああ」と呟いていた。


「アイツに頼まれてたんだよ」


「何を?」


「…人探し」



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