想いと想いの狭間 (6)
教室に戻って来た私は酷い顔をしていたらしく、香織に問い詰められて、通称“開かずの間”であったことを総て話した。
香織から『どうしてそのまま戻って来たの!』と怒られたけれど、黎人の事になると臆病になっちゃうんだよ…
「先輩も先輩だよ!彼女を放っておいて女の人と迎えに行く話をしなくてもいいじゃない!」
私の代わりに怒ってくれている香織は拳を握りしめて憤慨していた。
「今からでもいいから行ってみれば?まだいるかもしれないよ」
「今日はもういいよ」
だって『今からかよ』って言ってたし、黎人は迎えに行くと思う。
「久しぶりに漣兄様も史兄様もいないから一人時間を満喫する」
「試験前だけど…買い物に行く?」
「行く」
香織の誘惑に乗った私は迎えの車を屋敷に帰すと桐生家の車に乗り込んだ。
・・――――
―――――・・
寝不足の私の目の前には腕を組んだ上級生がズラリと並んでいた。
「聞いているの?」
前にもこんなことがあったな…
「怖くて何も言えないってとこかしら?」
怖くはない。
私だって弱っている時くらいある。それだけ…
チラリと上級生達を見れば、“ギン!”と効果音がついてきそうな眼差しで射られてしまった。
「…」
「あなた、1年生よね」
「そうですね」
1年生がどうしたっていうんだろうか…
早く解放して欲しい。保健室で寝たい。
昨日は香織と買い物して家についたら史兄様が凄く怖い顔をして待っていた。
『試験前に買い物に行くっていう事は余裕だと考えていいんだよな?』そう言って目標点数を10点も引き上げて、問題集で90点取れないうちは寝かせないと宣言されてみっちりと絞られた。
立ったまま寝られる位に眠い…
次々に捲し立てる上級生の言葉が耳に入ってこない。
「あなたが漣君の妹だから黎人君はあなたに構っているだけなの。彼女面しないで!」
彼女みたいなこと、もっとしたかったな…
上の空で聞いていたら、上級生の顔が近くにあった。
「あなた、知っている?黎人君は女に本気にはならないのよ」
至近距離で意味深に言いながら私を鼻で笑った。
黎人が女に本気にならないなら、彼女を置いて他の女の人を迎えに行くって言うのもあり得る話だね。
その言葉に余計に落ち込んでしまう。
やっぱり私だけが好きなのかな…
「あなたが傷つくだけよ。これ以上近付かないで」
今度は大学生のお姉さんが怖い顔で詰め寄り、口角を上げて笑った。
彼女から顔を背けると、腕を強く引かれた。
バランスを崩してよろけると、暖かいものに受け止められた。
「随分好き放題言ってくれてんだな」
後ろから抱きしめられて体が強張った。
どうしてここにいるの?
「黎人君!?」
「名前で呼ぶな!馴れ馴れしい」
黎人は私を腕に抱いたまま大学生に向かって口調を荒げた。
「黎人、何でいるの?」
黎人の顔を見上げると怒った顔で私を見下ろしていた。
「勝手に消えるなこのバカ!!電話に出られないならメールぐらい返せ!」
怒鳴られた…
いきなり怒られる理由が分からない。怒りたいのは私なんだけど…
「なんで?」
イラつきを隠して聞くと、眉根を寄せて私を睨んだ。
「何でだと?…利奈、おまえなぁ」
「黎人君は優しいから!漣君の妹だからでしょ!?」
黎人を遮って必死な声が響いた。
泣きそうになりながら黎人を見上げている人。
「漣?関係ねぇよ」
黎人が不機嫌さを隠そうともせずに言い切ると、女の人は私を睨みつけた。
「そんな黎人君は見たくない!黎人君はクールで絶対に女に本気にならない!」
こんな状態じゃ黎人と話をすることはできないよね。
先輩達の言葉を無視して私の顔を覗き込む黎人に悲鳴のような声があがった。
もう、どうでも良くなってくる。
黎人に引き寄せられていた腕を解いて、先輩達に視線を合わせた。
「先輩」
「な、何よ」
「…皆川先輩の事が好きな気持ちは分かりますけど、私に意見をされても迷惑です。当人同士で話し合ってください」
自分の想いに私を関連付けて誤魔化さないで、黎人と向き合った方がいいんじゃないだろうか?…なんて、自分の事を棚に上げているかもしれないけれど、今は彼女達に構う余裕が無い。
「な…何なのよこの子!」
頭を下げてその場を去ろうとすると笑い声が響いた。
「利奈、兄貴が捜してる」
その言葉にポケットから携帯を取り出した。
携帯は電源が落ちていた。
「昨日充電するの忘れた…」
「バカだな。兄貴、機嫌悪いぞ」
今朝、史兄様から『学校が終わったらすぐに帰ってこい』って言われたんだった。昨日の兄様を思い出して憂鬱になった。
「これ以上怒らせたくないから帰るよ」
「それが懸命だな。…黎人、利奈は連れて帰るぞ」
漣兄様に肩を抱かれて黎人に背中を向けた。
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