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想いと想いの狭間  (4) side:黎人

「おまえ、何をした?」


何って、オレの想いを伝えて利奈の想いを確かめた。キスをしたのは…今更だな。


「何って…」


正直に答えたら怒り狂うだろうな…つい、言い淀んでしまうと鋭い目でオレを見る漣。

学園の王子様はどこへ行った?と聞きたくなるようないつもの漣からは想像もできないような険しい表情。


「黎人、答えろ」


本当に不機嫌そうな顔を見て、悪いとは思いながらも笑いたくなった。

…やっぱり言えないよな


「…ムキになるなよ、桐生から聞いた話と利奈が言っていた事を繋いだら答えが見えたんだよ。利奈の怪我は事故じゃない、お前だってそう思ってたんだろ?」


そう言うとオレから目を逸らしてしまった。


誰もが不自然だと思っていた利奈の怪我。

オレは利奈が漏らした不安を聞いた時、行動に移した。それだけだ


「利奈が言ったんだよ。『自分の身に危険が及びそうになったら、家の名前を使うのは卑怯だと思う?』漣、どういう意味だと思う?」


漣の表情が強張った。

おまえにもどういう意味かわかるだろ?利奈は自分が狙われているのを分かっていた。


「利奈がそれを言ったのはいつだ?」


「陸上部で一緒だった男に記録会に誘われた後だよ…考え込んでいるのを見かけて声をかけたら聞かれた」


母親の事は言えない。利奈との約束だから詳しく言う事はできなかった。


「それで親父に連絡を取ったのか?」


「まぁな」


――普通なら高校生が会える相手じゃない。

それでもオレが剣崎氏に会えたのは、兄貴達には言えない利奈の心の闇を知っているから。

だからオレの話を聞いてくれたんだと思う。


利奈の言葉を伝えると剣崎氏は史明さんに調べるように指示を出した。

事故が起きた当時の事を徹底的に調べ直して浮かび上がった二人の女子生徒。

そのうちの一人に見覚えがあった。

利奈が評判の悪いクラブに行った時に有村に纏わりついていた女。


「どうして黎人なんだよ?兄貴に聞かされた時はマジで腹が立った」


どうして?…愚問だな

利奈の全てが欲しいと思ったから理解したかった。だからどんな些細なことでも聞き逃したくないし見逃したくなかった。


「オレだから、だろ?」


笑いながら漣を見るとオレを睨みながら口を開いた。


「利奈はやらないからな」


前にも漣から言われた言葉。

あの時はニヤリと笑っただけで済ませたけれど、今は状況が変わっている。


「皆川の名前では不満か?」


否定できない事を承知した上で言葉にすると、案の定漣は口を噤んだ。

剣崎家程じゃないが、ウチだって悪くはない筈だぜ?


「おまえ、本気なのか」


今までのオレを知っているならその質問は当然だよな。

親の言うままに家を継ぐことに抵抗があったけれど、利奈を手に入れるためにはそれも悪くない。そう思うようになった


「遊びでこんな手間がかかる事をすると思うか?」


そう言うと、漣は探るようにオレを見た。


「…利奈はまだ高校1年生だ」


「そうだな」


漣にとって大切な妹を取られて面白くないんだろう。でも、のんびり構えていたらあっという間に他の男に攫われてしまう。

利奈はそういう立場に立たされているし、オレも似たような立場に立たされている。


“コンコン”控えめに扉が叩かれると漣が不機嫌さを隠そうともせずに返事をした。


「漣様、史明様がお呼びです」


「分かった」


漣が部屋を出て行くと執事がオレに深々と頭を下げた。


「利奈様を支えて下さってありがとうございます」


そう言えば母親と対立した時も彼に頭を下げられたことを思い出しながら頭を上げるように言うと彼はもう一度だけ深々と礼をして姿勢を正した。


「利奈は?」


「ご自分のお部屋にいらっしゃいます」


史明さんの事だから利奈を泣かせるような事はしないだろう。

心配はしていないけれど、早く傍に行ってやりたい。そう思って利奈の部屋に行くと、利奈はソファに座ったままテーブルに置かれたティーカップを見ていた。


「利奈?」


隣に座ると、少し放心したような顔をオレに向けた。

利奈を抱き寄せるとオレの腕の中で目を閉じた。


「叱られた?」


そう聞くと目を閉じたまま柔らかく微笑んで頷いていた。


「黎人、ありがとう。何時も助けてもらってるね」


一瞬だけオレを見るとすぐに視線を伏せてもう一度「ありがと」と言う利奈。

その仕草に心が全部もっていかれそうになる。


オレはいつからこんなに嵌った?


「黎人?」


「…責任取れよな」


利奈が抵抗できないように抱き込んで唇を重ねた。



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