想いと想いの狭間 (2)
黎人の顔を見ているのが恥ずかしくて俯いたら抱き寄せられた。
彼がつけている香水の匂いを感じたら涙が出そうになった。
好き、黎人が好きなの。
いつからこんなに好きになったんだろう…
彼の胸に頬を当てて目を閉じていると「…時間かかりすぎ」と呟く声が聞こえた。
「利奈」
名前を呼ばれると唇が重なり、絡め取られるキスに頭の中が痺れていくような気がした。
恥ずかしくて身を捩って逃げようとしたけれど、黎人の左手は私の頭の後ろに回されていて、動かすことが出来なかった。
「…ぁっ」
息苦しくて漏れてしまった声。
その声も食べてしまうかのように深くなるキスに繋がった唇から水音が零れていく。
「っ…んっ…」
頭だけじゃなくて、体中が痺れてしまいそう。
――どうしよう、おかしくなる。
同じキスなのに、想いが通じただけでこんなに違うものなんだろうか…
運転席と後部座席が隔てられていて良かった。
こんなの、恥ずかしすぎる。
車が停止すると、唇が離れた。
「煽ってんの?」
顔を覗き込んだ黎人に、カッと顔が熱くなるのが分かった。
「なっ…!!」
「今度、ゆっくりしてやるよ」
口角を上げて余裕の笑みを浮かべる、憎たらしいけれど大好きな男。
「黎人様、到着致しました」
後部座席のドアが開けられ、黎人に促されて車を降りた。
「どうしてこのお店に来たの?」
連れて来られた店を見て驚いた。
私は彼に雅樹と来たお店の事は話さなかったのに。どうして私が行こうと思っていたお店が分かったの?
「桐生に聞いた。この店に買いに行くつもりだったんだろ?」
「うん。連れてきてくれてありがと」
黎人は私の手を取り、お店の中に入って行った。
「どれだ?」
黎人と手を繋いだままライターが置かれているショーケースの前に立った。
「これ。形が綺麗だなって思ったの」
「女性用だな…手に取って確かめてみれば?」
黎人が言うと、店員はケースの中からライターを取り出して私の手に乗せてくれた。
…ライターって持った事がないんだけど、これって重いの?軽いの?
黎人に聞こうと思って隣を見ると、携帯を見ながら舌打ちをしていた。
「…オレ。何だよ?」
私に背を向けて面倒そうに話し始めてしまった。
誰からの電話だろう?
「お客様、ライターでしたら他にもございますがご覧になりますか?」
店員が愛想良く笑い、私は頷いて他の物も見せてもらうことにした。
「そうだよ。―――なんでおまえの許可がいるんだよ?」
喧嘩腰に会話をしている黎人が気になって、彼を見ると自分の唇に人差し指を当てて“静かにしてろ”と合図した。
「…別に、親父さんには許可取った。…妹の幸せを願えよ」
聞き役に回った黎人は、天井を仰ぎ見て目を閉じると溜息をついていた。
「好きにしろよ。その代わりにおまえの可愛い妹が泣くかもな。…それでもいいならやれよ、兄様」
最期は茶化すように言って電話を切ってしまった。
今の会話って漣兄様だよね?
「漣兄様から?」
「帰ったら面倒臭いのがいるから気をつけろ?」
黎人のうんざりとした顔を見て、家に帰るのが怖くなった。
漣兄様は黎人に何を言ったんだろう?
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