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片恋 (6)

相変わらず黄色い声が飛び交う体育の授業。

兄様のクラスの隣で授業をしている筈が女子生徒の殆どは隣のコートで繰り広げられているサッカーの試合を熱心に見ている。


「飽きないよね」


3年生を、というより自分のクラスの女子生徒を眺めながら言うと、隣にいた香織は苦笑しながら教えてくれた。


「それは利奈がいつも一緒にいるからそう思うだけだよ。普通は滅多に見れない貴重な存在なんだよ」


貴重、ね…王子の仮面を被っている御曹司って貴重かな?


「まぁ、いいや。私、抜けるね」


私は授業にならない状態から抜け出すと、香織は「私も行く」と言い、二人でのんびりできる場所を目指した。




前に来たことがある、小さな噴水がある広場に来た。


「ここは静かだね?」


珍しそうにあたりを見回す香織が可愛かった。

彼女は何をしても仕草が可愛らしい。


「でしょ?」


前に来たことがある広場。

あのときは天気の良い日だったけれど、今日はどんよりと空が曇っている。


「利奈、元気ないよ。悩み事?」


香織に顔を覗き込まれて、苦笑いを返した。


「考えなきゃいけない事がいくつかあるんだけど、考える余裕がないっていうか与えられないっていうか…」


毎日、登下校は漣兄様と一緒だし、夜は史兄様の家庭教師が待っていていつもどちらかが傍にいる状態が続いている。

少し一人になりたかったから大輝の誘いにもOKの返事をした。


「じゃぁ、お茶でも飲みながら考えたら?私は邪魔しないからのんびり考えればいいよ」


香織は「何か買って来るね」と言い、行ってしまった。

優しい心遣いに感謝をして、前と同じように大きな幹に寄りかかり目を閉じた。


考えたかったことの一つは、ママの事。

日本を発つママを見送ったら、いつ会えるか分からない。

ママよりもパパ達を選んだ私を受け入れてくれるか分からないけれど、伝えたい気持ちがある。


―利奈を忘れないで―どうやって伝えたらいいだろう?ママの事だから言葉だけでは受け入れてくれない。

どうすれば伝わるのかな…


細い指に煙草を挟んで吸っていたママを思い出した。

良く煙草吸ってたな…


ライター。

プレゼントしたら受け取ってくれるかな


「さぼりか?」


急に声をかけられて吃驚して目を開いた。

どうしてここに居るの?さっきまでサッカーをしていたのに…


「一人で、何を考えていた?」


小突かれた額を抑えながら黎人を睨んだ。


「一人じゃないもん。香織と一緒だったよ」


いつもと同じように答えられている?

黎人を見上げて言うと、私の隣に座りまた額を小突いた。


憎たらしいくらいにいつも通りだね?


「眉間に皺を寄せて何考えてたんだよ?」


皺なんか寄せてない…人聞きの悪いこと言わないでよね


「ライターのこと考えてた」


「は?利奈、おまえ大丈夫か?」


黎人は片眉を上げて「熱でも出たか」そう言いながら私の顔を見た。


「大丈夫だよ!プレゼント用にライターを買おうかなって考えてたの」


この前、雅樹と一緒に行ったお店に形が綺麗なライターがあったのを思い出した。

細くてラインの綺麗なアレならママも使ってくれるかもしれない。


「利奈、ライターをプレゼントするっておまえ…意味分かって言ってるのか?」


『利奈を忘れないでね、たまには思い出してね』っていう気持ちを込めたかっただけなんだけど、黎人が怖い顔をするような他の意味があるの?


「意味なんか知らない。ねぇ、黎人は煙草吸う?」


「なんでだよ」


不機嫌そうに聞き返した黎人。前にクラブで会った時は吸ってなかったよね?


「なんでそんなこと聞くんだよ」


「煙草を吸う人にとってどういうのが使いやすいのかな?って思ったの」


そう答えたら、ますます不機嫌になってしまった。


「そんなのライターを上げたい奴に聞けばいいだろ?」


「聞けたら苦労しないよ。それに、あげるまで内緒にしたいの。ねぇ、女の人だったらあんまり重くない方がいいのかな」


「女?」


「うん、ママに贈ろうと思ったの。ねぇ、ライターにもいろんな種類があるのかな」


「あんまり重くない方がいいんじゃないか?」


急にすんなりと教えてくれた黎人にありがとう、とお礼を言った。


大輝と約束した記録会を見に行った帰りにお店を見て来ようかな。

ママの事は、プレゼントを買ってからもう一度考えよう。


考えたかったことが一つ終わり、次に考えたかったことが頭に浮かんだ。


「あのね、聞いてもいい?」


「質問ばっかりだな。なんだよ?」


大輝の競技を見に行く。

そう決めた時に、“来るかもしれない”そう感じたから自分の気持ちを整理したかった。


「自分の身に危険が及びそうになったら、家の名前を使うのは卑怯だと思う?」


黎人にまた「おまえ、大丈夫か?」そう言われると思ったのに、彼は私の顔をじっと見たまま何も言わなかった。


「ねぇ、私ってズルいかな」


もう一度聞くと、黎人はフッと笑って答えてくれた。


「覚悟があればいいんじゃねーの?」



.


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