片恋 (4)
優しく『どうして泣いてる?』そう聞かれて胸が苦しくなった。
「ママのことでパパの秘書から電話があっただけ」
「それだけで泣いたのか?」
黎人に促されて、ベンチに並んで座った。
この人には私の弱い部分をさらけ出してばかりいる。情けないところばかり見られている。
「ママが日本を発つ連絡」
「そうだよな。利奈が剣崎に戻ったという事は…」
語尾を濁す黎人に頷いて肯定した。
ママはすぐにでも恋人のところに戻りたがったと思う。きっとパパがママを日本に引き留めて、私の親権を取り戻すための手続きを進めてきたんだと思う。
「私がここで電話をしていたことは漣兄様には言わないで欲しいの。兄様はママのことが…」
最後まで言わないうちに頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「わかってる。親父さんは?」
「知ってる。パパは兄様達にママの事を話すつもりはないって」
黎人は何も言わずに頭を撫でていた。こんな風に二人きりになるのは球技大会以来だと思いながら目を閉じた。
噂の事を聞いてみようか‥?でも、『そうだよ』そんな答えが返ってきたらどうしよう?
何度も口を開きかけたけれど、出てきたのは情けない言葉だった。
「私、もう行くね」
臆病な私は、それだけしか言えずにベンチから立ち上がった。
「利奈」
そう言われて腕を引かれた。触れられている腕が温かかった。
「何?」
「前に約束しただろ?球技大会で優勝したらお気に入りのカフェのパフェを全種類食べたいって。連れて行ってやるよ。いつがいい?」
「…忙しいんでしょ?無理しなくてもいいよ」
そう言ってから後悔した。
私、素直じゃない。可愛くない。
「食べたいんだろ?」
パフェなんかどうでもいいよ。黎人と行けるならそれだけでいい。
――でも、素直にその言葉が出てこないの。
「噂、聞いたよ。人を探しているんでしょ?髪の長い女の子」
そう言うと軽く舌打ちをした。
その表情を見て、また涙が出そうになった。
「もう、行くね」
そう言うと、掴んでいた私の手を引いた
「利奈」
黎人の目の前に立つような形になり、まだベンチに座っている彼を見下ろした。
「なぁに?」
黎人は背が高いからいつも見上げてばかりいるけれど、今は彼が私を見上げている。
見上げても、見下ろしてもカッコイイなんて狡いよ。
「どうしてお前はオレからキスをされて受け入れる?」
真っ直ぐ向けられる目に、形の良い唇に引き寄せられた。
「どうしてだろうね?」
私が屈んで黎人の唇に自分の唇を重ねると、黎人の顔に私の髪がかかった。
「黎人も私からのキスを受け入れてくれるんだね。…どうして?」
前に『甘いから』そう言っていたけれど、それは今も同じ?それだけなの?
最初、黎人からキスされた時はただ混乱した。
「利奈?」
何度目かのキスで知ったの。
黎人って、口は悪いけど優しいの。キスはもっと優しいんだよ。
不意に私の腕を掴んでいた手が離れたから、私は黎人に手を振ってその場を立ち去った。