片恋 (3)
好き・・黎人の事が好き。
そう気づいたけれど、彼は一目惚れした女の子を真剣に捜しているらしい。
その噂が学園中を賑わせていた。
彼に会うのは昼休みだけになり、それ以外で彼を見かけるといつも髪の長い女の子に囲まれている。
今も、二人の女子生徒と何かを話している。
パパの側近から携帯に連絡が入った。
電話があったのはもうすぐ授業が始まるという休み時間だった。剣崎の家に関わる事で家族以外からの連絡なんて初めて。
今までは、必ず史兄様経由で話があった。
史兄様を通していないという事はきっとママの事だ。それ以外に考えられない。
「香織、電話が来たから先に移動してて」
「え、授業が始まるのに?利奈っ?」
「ごめん!少し遅れるって先生に伝えて?」
香織に手を振り、廊下を歩いてきた方向とは逆に歩いて中庭を目指した。
中庭に着くと、着信履歴に折り返し連絡をした。
『申し訳ありません、利奈様』
漣兄様にも聞かれたくないから授業に入りそうな今電話を寄越した。そうなんじゃないかな。
「ママの事で何かあったのでしょう?」
『10日後に日本を発たれます。利奈様にお伝えしようか迷いましたが、決断されるのは利奈様だと思いましたのでお伝え致します』
「パパは知っているの?」
『はい。利奈様にお話しすることもご存知です』
「兄様達には?」
『お話をするつもりはないそうです』
目頭が熱くなった。
ママと兄様達の溝はとても深い。
日本を発つと言っても兄様達は何もしないだろう。特に漣兄様はママのことになると過剰な反応を見せる。この事は兄様達には知らせない方がいいのかもしれない。
「日本を発つ日に、兄様達にわからないように空港に連れて行って欲しいの。・・できる?」
『かしこまりました。 詳細はご自宅にお帰りになってからで宜しいですか?』
「うん・・・絶対に秘密だから。ね?パパにもそう話してほしいの。お願い」
『承知致しました』
通話を切って深呼吸をした。
泣くのは今だけ、兄様達に気付かれないようにしなければいけない。
そう決めて、もう一度深く息を吐いた。
「利奈」
声をかけられて振り返った。
「黎人・・・」
黎人の隣に漣兄様がいなくてホッとした。
「授業中じゃないの?」
「黎人だってそうじゃない・・授業はいいの?」
私が聞くと黎人は私に歩み寄り、親指で私の頬を撫でた。
「どうして泣いてる?」
優しい言葉をかけられて、余計に涙が出そうになった。