片恋 (2)
数日後、私は学校で噂話を聞いた。
それは女子更衣室で皆が興奮したように話していた。
「皆川先輩が女の人を探してるって、知ってる?」
「知ってる!桃陵の生徒で、髪の長い女の子を探しているんでしょ?」
「皆川先輩に探された~い!」
「それって、一目惚れした人を探してるって聞いたよ!?」
「それ、私も聞いた!真剣に捜しているんでしょ?」
「探されて、好きって言われたらどうする?」
「言われた~い!付き合うに決まってるじゃない!」
香織が私を見ていた。
「利奈、早く教室に戻ろう?」
香織に急かされて教室に戻る途中で女子生徒に囲まれている黎人を見た。
彼の周りにいる女の子は髪の毛が長い子ばかり。
彼女達と黎人は何かを話していた。
「皆川先輩、何をやってるんだろう?」
苛立ちのこもった声で香織が呟いていた。
「さぁ、気紛れだから何を考えてるかわからないね」
私を探していたときもあんな風に聞いて歩いていたの?
でも、新しく気になる子ができたんだね・・今度はその女の子を探し出して・・
そこまで考えて、胸が苦しくなった。
「・・やだ・・」
「利奈?」
呟いた声が香織に聞こえたようで、香織が私の顔を覗き込んだ。
「なんでもないよ」
授業の内容は頭に入らなかった。
お昼休みもぼんやりしていた。
「利奈、もう食べないの?」
「うん。・・兄様、食べて」
お弁当を兄様に向けると
「利奈、具合が悪いのか?」
首を横に振った。
どこも痛くないよ・・・
「利奈!ちょっと来てっ!」
急に席を立った香織に手を引かれた。
香織に空き教室に連れて来られた。
「利奈、さっきからおかしいよ?」
「うん・・何となくね」
そう言うと香織は私の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、利奈、皆川先輩の噂でしょ?何を思ったのか話して?」
香織が優しく聞いてきた。
「嫌だったの」
黎人が探している女の子が現れて、その子に優しい言葉をかけるのが嫌。
「利奈?」
「黎人が他の女の子に優しくするのを見たくない」
他の女の子を抱き締めて欲しくない。キス・・して欲しくない。
そう思ったら、何故か涙が出てきた。
「泣かないで?何か事情があって人探しをしているだけなんじゃないの?」
それでも嫌だ。そう思ったって香織に話したら呆れられるだろうか?
「利奈は皆川先輩の事が好きになったんだね」
黎人の事が好き・・
ああ、そういう事なんだ。その言葉が心に落ちてきて納得した。