猟奇的ガールフレンド
ある夜、ある小さなの部屋にて。
瑠璃色の双眸を輝かせ彼女は僕に問う。
「ねえ、もう限界?」
僕は何も言えず、ただ苦しそうに呻き声を上げることしか出来なかった。
僕は首に縄を括り付けられた状態でつま先立ちをしている。要するに、つま先立ちを止めた瞬間に首が締まり窒息死する事になる。
もう数時間この状態で放置されている。既につま先の感覚は無く先程より首に当たる縄の締め付けが強くなっている。
この状態で答える事なんて出来るわけがない。
そんな僕を見て、彼女の妖艶な赤い唇が三日月型に歪む。
「ふふっ。答える余裕はない……とでも言いたげね」
ご明察だ。そろそろ限界かもしれない。
少しでも力を抜いたら、そのまま身体は崩れ落ちるだろう。
それなら、最後に一言……。
⭐︎⭐︎⭐︎
ある放課後、ある高校の裏庭にて。
「好きです。付き合って下さい」
そう言った僕を彼女はつまらなそうに見つめていた。
その反応で僕は彼女の返答を理解した。彼女のとって僕は道端の雑草と何ら変わりないのだろう。
悲しむへきだろうか。でも僕は雑草でも良かった。
今この瞬間に彼女の美しい瑠璃色の瞳に自分が映っている。ただそれだけで十分だ。
……けど、彼女の返答は僕の予想を大きく裏切るものだった。
「んー、良いわよ」
「分かりました。時間取らせてごめんなさい」
あらかじめ用意していた言葉を矢継ぎ早に放って去ろうとした僕の足は途中で止まる。
「聞こえなかったかしら」
そう言って彼女は僕に近づき、耳元で囁いた。
ーー私も好きよ。
⭐︎⭐︎⭐︎
いつからか彼女は僕を殴るようになった。
頬は赤く腫れた。
だけどそれで良い。彼女の愛は僕に向いている。
いつからか彼女は僕を蹴るようになった。
骨に小さなひびが入った。
だけどそれで良い。彼女の愛は僕に向いている。
いつからか彼女は僕を刺すようになった。
肌に縫い目が残った。
だけどそれで良い。彼女の愛は僕に向いている。
いつからか彼女は僕の爪を剝ぐようになった。
爪の下が剥き出しで痛い。
だけどそれで良い。彼女の愛は僕に向いている。
いつからか彼女は僕を抉るようになった。
身体に不自然な凹みが出来た。
だけどそれで良い。彼女の愛は僕に向いている。
いつからか彼女は僕を切り落とすようになった。
手の指が四本になった。
だけどそれで良い。彼女の愛は僕に向いている。
ーー彼女は笑ってる。だから僕も笑う。
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。
⭐︎⭐︎⭐︎
文字通り最後の力を振り絞り、僕は床を蹴った。僕の首に括られた縄に少しの余裕ができる。
すうっと息を吸い込み、全身全霊で喉を震わせる。
「愛してる!」
そう叫んだ僕を彼女は、鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けな顔で見つめていた。
そんな顔も出来たんだな。最後にその顔を見れただけ満足だ。
脱力する身体は重力に逆らえず真っ直ぐに落下してゆく。そして勢いよく縄が首を締め付ける。
しばらく痙攣し、糞尿を垂れ流す。
僕の死は暗く小さな部屋で、彼女によって看取られたのだった。
彼女は僕を殺した。
そして、僕は死んだ。
だけどそれで良い。彼女の愛は僕に向いている。




