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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第七章 受肉 x 家元 x 四つ子再び

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第43話

 江ノ島の翌日。

 部室に集まったわたしたちは、ダンジョンの奥でミノさんのために集めてきた護符と天叢雲(アメノムラクモ)キーホルダーを差し出した。


「おお、やるやん。護符の数もえらいもんやけど、三種の神器のレプリカなんてそうそうお目にかかれるもんやあらへんで。ものごっついエーテル含有量や」

「そうなの?」

「そりゃそうやで。まず出現条件がシビアな上に、ボスがアレ(・・)やからなあ。苦労したやろ?」


 苦労、なんて一言で片付けられる相手ではなかった。

 たぶん、我ら桜吹雪高校チームの3人だけでは全滅していただろう。悔しいが、ブランと剣城さんがいなければ勝てる相手ではなかった。まあ、さすがに彼女らでも二人だけでは勝てなかっただろうけど。


「そんじゃ、ありがたく頂くでえ」


 ミノさんは数十枚の護符と天叢雲キーホルダーをおもむろに口へと放り込み、もしゃもしゃと咀嚼し始めた。どうやって使うんだろうと気になってはいたけれど、まさか食うとは……。

 反芻動物らしくもしゃもしゃと左右に動く顎の隙間から、ぽわわんと光があふれてくる。


「おおおオオオ……、来たで来たで来たで来タでぇぇぇェェぇえエエえ!」


 ミノさんがなんかやばげなテンションで叫ぶと、全身が光りに包まれる。

 爆発するんじゃないか――と思わず後ろに跳んで距離を取ったが、幸いにしてその予想は外れ、光は徐々に穏やかになり、やがて人型のシルエットが現れた。


「ふいー、どないなもんやろ? 顕現なんてひさびさやけど、ちゃんと出来とるかな? おっ、ばいんばいんやん。すごっ」

「…………」


 あれはミノさん……でいいんだよな?

 あまりの変貌に、わたしを含めキリ先輩も鬼嶋も言葉を失っている。


「どしたん? そんな阿呆づらさらして。なんや、ワイがあんまりセクスィやから面食らったんか? あはは、おぼこいのう。やっぱり女子高生やな」

「いやいやいや、そういうんじゃなく」


 顔の前で全力で手刀を左右に振る。

 いや、面食らったのは事実なのだが。


 変身を遂げたミノさんは、一言でいうとグラビア系コスプレイヤーだった。ゆったりした巫女服越しにもわかるばいんばいんの胸とお尻。そして朱色の帯できゅっと締まった腰つき。ホルスタインビキニなんかを着せて、つぶやいったーにアップしたら万バズ間違いなしだろう。


「ふふーん、依代の質がええからずいぶん育ったのう。こりゃ過去イチやで」

「っていうか、女だったの……?」

「モンスターに男も女もあるかいな。せやけどダンジョン道はほとんど女がやるからのう。それから学習したら当然こうなるで」


 こめかみの上辺りから生えた短い角に手を添えたり、胸の谷間を強調したりと色んなポーズを取って、ミノさんはことさらに女をアピールする仕草を見せつけてくる。


 キリ先輩がそれを真剣な目で見つめながら、「これはかなり再生数を稼げる……。でも変なフォロワーが増えそうだし、生徒会から怒られそうだし……」と何やら呟いていた。どうやら部のチャンネルに動画をアップするか悩んでいるらしい。部費の貴重な収入源だから、真剣にもなる。


「さて、これで外にも出られるようになったはずや。先に出とるで」


 ミノさんが光の粒に分解され、消えていく。

 わたしたちもキーストーンに念じて脱出した。


 * * *


「ふい~、ひさびさのシャバの空気は美味いのう」


 部室では、ミノさんが背筋を伸ばしてストレッチをしていた。

 豊満な胸が強調され、ますます目に毒だ。

 っていうか、背景が馴染み深い日常風景だけに非現実感がすごいな……。

 生成AIで出力したんじゃないかっていうレベルのすごいプロポーションだ。


「そういえば、ダンジョンのモンスターって外を出歩いていいもんなんですかね?」

「また今更な質問かよ」


 素朴な疑問を口にすると、鬼嶋が呆れたようにため息をついた。


「普通、ダンジョンのモンスターは凶暴だから、外に連れ出す人はいないね。大人しい種類なら、ペットとして飼っている人もいるよ」

「餌がバカ高けぇから、金持ち以外にゃ縁がねーけどな」

「そうだね。しかも喋れる人型なんて珍しいから、連れ出すとちょっとした騒ぎになっちゃうかも……」


 ほほう、そんなことがあるのか。

 うちはペットを飼っていなかったし、お金持ちの友だちもいなかったからぜんぜん知らなかったぜ。……お金持ちじゃなくても友だちなんかいなかったけど。


「しかし、これがペット……」


 思わずミノさんを細目で眺めてしまう。

 これに首輪と綱をつけて散歩をしたりするんだろうか。

 議論の余地なく、通報待ったなしである。


「なーんや変な想像しとるのう。角は帽子でもなんでもごまかせばええし、服は適当にお前らのもんでも――」


 ミノさんはわたしたちの身体をじっと見回して、


「――うん、すまん。無理そうやな。悪いけど適当に着替えも用意しといてや」

「おいこら、いま何見てた」

「てめえ、いま何見てた」

「ちょっと、何を見てたんですか」

「うはははは、タッパやタッパ。身長の話やって」


 三人同時に低い声で唸ったら、ミノさんは楽しげに笑った。

 むむう、いい性格をしてやがる。知ってたけど。


 我ら桜吹雪高校ダンジョン部、残念ながら揃いも揃って恵体にはほど遠い。まずわたしとキリ先輩はともすれば中学生に間違えられるし、もっとも発育のよい鬼嶋であっても平均的な身長体型である。


 一方のミノさんはたぶん身長は180センチあまり。スリーサイズは想像もしたくない。たぶん漫画みたいな数字を叩き出すはずだ。上から108、59、102みたいな。いやだから想像もしたくないんだってば。


「とりあえず、大きめサイズのお店でジャージでも買おっか」

「ああ、一番だっせぇやつな」

「不肖一年、靴も便所スリッパを提案します」

「ちょちょちょ、おまえら何ゆうとんねん!? そんなん買うたとしてやぞ、おまえら、そのださださ姉ちゃんとつるむことになるんやからな!? おまえらこそ恥ずかしいことになるんやぞ!?」

「「「ちっ」」」


 舌打ちが三重奏を奏でた。

 ミノさんが「勘弁してえな……」とぼやいていたが、勘弁してほしいのはこちらである。とりあえず、絶対にスタイルだけは比べられないようなコーディネートを選ぼうと、三人で固い決意を共有するのであった。

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