第41話
(なんか急に仲良くなってない?)
競うように(実際競っているのだが)牛頭天王狩りに加わった鬼嶋と剣城さんを横目に見ながら、わたしも負けじと牛頭天王をぶっ飛ばす。正直なところ二人が参加してからはすっかり乱戦状態で、もうカウントなんていい加減なのだが、それでも負けたくはないのである。
それは、たぶん100体目の牛頭天王を討伐したときだった。
――〽ひゃららら~ ひゃらら どんどんっ ちんちん どんどんっ ちんちん ひゃららら~♪
どこからともなく、お神楽のようなBGMが流れてきたのだ。
ぴしゃぁぁぁぁああああん! ごろごろごろごろ……
続いて雷鳴。
激しい閃光に、一瞬視界が真っ白に染まる。
「な、なに……?」
薄目を開けて見た光景は、それまでとはまるで様子が変わっていた。
板敷きの小屋の中に、見慣れない木製の機械がところ狭しと並んでいる。
横木に何本もの糸が張られ、その先には作りかけの布。
これは――機織り機?
それらが、無人のままかたんことんと規則正しい音を立てている。
「転移の罠だね。罠は踏んでないから、条件達成型の――」
と、キリ先輩が言いかけたときだった。
がっしゃぁぁぁあああん! べちゃっ
吹き抜けの屋根板が突き破られ、赤黒い物体が降ってきた。
物体はべちゃりと重く湿った音を立て、辺りに赤黒い液体を撒き散らす。
血だ。
そして、赤黒い物体の正体は――
「なんだよあれ……、もしかして馬か!?」
乗り物つながりなのか、鬼嶋がいち早く気がついた。
それは全身の生皮をひん剥かれた馬だったのだ。
はっきり言って、グロすぎる。
Yourtubeで配信したら一発BAN確定の代物である。
「機織り小屋に、生皮を剥がれた馬の死体。これはひょっとして――」
どがしゃぁぁぁああああん! どどんっ
またしても、キリ先輩の言葉が騒音でかき消される。
屋根の穴から降ってきたのは、髭面の大男。
蓬髪をライオンのたてがみのように生やし、額には金の冠。
裾のほつれた白い貫頭衣の腰を、朱色の布で縛っている。
大きさも雰囲気も関帝廟で見た張飛ゴーレムに似ているが、たくましい腕に握られた獲物は蛇矛でなく青銅色に輝く直剣。
一体こいつは――
「がははははは! 我は建速須佐之男! 伊邪那岐命の子にして、天照大神の弟神なり! 不躾にもこの高天原に土足で押し入った賊を天誅に参った!」
「スサノオぉ!? スサノオって、あのスサノオ!?」
考える前に、丁寧にも名乗ってくれた。
直剣を小枝のように振り回し、機織り機を粉砕している。
体格との比の関係で普通の直剣に見えているが、実際は柱のように太い。
「……うん、あのスサノオだね。日本神話の。高天原で暴れて、追放された頃のキャラだね。すごいシスコンだよ」
何度も言葉を遮られたキリ先輩が、不機嫌そうに解説してくれる。
解説内容にもどこか私怨が混ざっているように思えてならない。
「ブランさんとアカリちゃんは前衛! 正面からスサノオを引き付けて! 剣城さんは中衛で二人をカバー。ニコちゃんは自由に動いてかき回して! ……で、いいですか?」
「了解。はは、私だって指揮役なのに、出番が取られちゃったな」
キリ先輩の指揮の下、戦陣を組む。
「がははははは! 準備は整ったか? 高天原一の戦神、このスサノオの前に立つ蛮勇だけは褒めて遣わそうぞ!」
「ちなみに一般的にはタケミカヅチが最強って言われているね。力だけならタヂカラオもスサノオより上だと思う」
「何をぅ! 小娘がッ!」
キリ先輩の挑発に、怒りに震えたスサノオが前衛を無視して剣を振り下ろす。
何しろ3メートルを超える巨体だ。リーチが長い。
降り掛かった金属塊がキリ先輩の頭上に迫り、
「おっと、後衛を守るのも私の役割かな?」
ハルバードに受け流された直剣が、床板を叩き割った。
むう、見事な斧槍捌き。力で受けず、その方向をコントロールしている。
ブランばかりを気にかけてきたけれど、やっぱり剣城さんも並々ならない使い手だ。
「ハッハー! よそ見してんじゃねえぜッ!」
鬼嶋がバイクに狩り、機織り機の残骸を踏み台にして宙を舞う。
そしてすれ違いざまにスサノオの髭面に木刀の一撃をぶちかます。
「ぬおおッ! こざかしいッ!」
「当たるかよッ!」
切り返しの直剣を、鬼嶋がバイクごと身を捻ってかわす。
まるでハリウッド映画のスタントみたいだ。
なんだか普段よりキレがよくなっている気がする。
何か吹っ切れた感じがすると言うか――
「OuaaarrrrRAAAAAHHHHH!!」
「ごふうっ!?」
剣を振り上げ、開いた腹にハンマーの凶悪な一撃が突き刺さる。
ブランの怪力を受けて、スサノオの巨体がくの字に折れ曲がった。
「HaHaHaHa! ボスはおくせん万点デス! これを倒した方が勝ちデスよっ!」
「あっ! また勝手なルール増やして!」
まったく、勝手なことを言う。
しかし望むところだ。
なぜなら――
「もう数なんてわっかんないしッ!!」
「ぐべらっ!?」
下がってきた髭面の顎を、全力のアッパーカットでぶち上げた。




