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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第六章 江ノ島 x 共闘 x 生しらす丼

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第40話

「妹?」と聞き返した鬼嶋の声ははたして聞こえていたのか。

 続く剣城の言葉はほとんど独り言じみていた。


「うちは代々続く剣術家の家系でね」

「剣術家?」


 再び聞き返されて、剣城はハッとした表情を浮かべる。


「ああ、ごめんごめん。今どきそんなことを突然言われてもピンと来ないよね」

「あー……、悪りぃけど、ピンと来るぞ。アイツんちがそんな感じだったわ」


 火ノ坂に向けて顎をしゃくる。

 ちょうど飛び上がって牛頭天王(ごずてんのう)鼻面(はなづら)を殴りつけているところだった。


「なるほどね。彼女には何か近い雰囲気を感じていたけど、そういうことだったんだ」


 剣城は納得したような表情で頷く。


「なんだよ、やっぱりてめえもサラブレッドじゃねえか」


 火ノ坂と同じように、ガキの頃からみっちり武術を仕込まれてきたんだろう。あのじいさんみたいな達人に。オレみてえな一般家庭の出身とは大違いじゃねえか。


 鼻で笑うと、剣城はゆっくり頭を振った。


「サラブレッドだなんてとんでもないよ。私は落ちこぼれだったんだ」

「落ちこぼれ?」

「妹が優秀すぎてね。うちの流派は一子相伝。私も表技は一通り仕込まれたけど、御流儀(ごりゅうぎ)までは教えてもらえなかった」

「御流儀?」


 さっきから聞き返してばかりで頭が悪そうだな……。

 気恥ずかしくなって頬を掻くが、剣城は気にした風もなく話を続ける。


「代々の当主と藩主にだけ教える特別な技のことさ。他の流派じゃどう呼ぶのかは知らないけど。……って、ごめん。うちが小田原藩の剣術指南役だったって話からしないとダメだったか。うーん、どうもいけないな。話が上手くまとまらない」

「細けえ話に興味はねえよ」


 素っ気なく吐き捨てると、剣城は「それはそうだよね」と笑った。


「要するに、私は剣術サラブレッドになるべく生まれて育てられたけど、2つ下の妹という天才にあっさり負けた落ちこぼれってことさ」

「ふん、その落ちこぼれに負けたオレたちのざまがねえな」


 思わず口にしてしまう。

 自分でも理由がわからないが、剣城が己を卑下する姿に苛立っていた。

 しかし、剣城は何か感じるところがあったようで、小さく咳払いをして背筋を伸ばす。


「すまなかった。いや、謝るべきでもないのかな。これはちょっとした雑談さ。小さい頃、あやとりやおはじきでどうしても勝てなかった相手がいた。それくらいの話だと思ってくれていい。いまの私は剣術なんかより、ダンジョン道(こっち)に真剣だからね。こっちでは妹はもちろん、誰にも負ける気はないよ」


 剣城がハルバードを回し、穂先をびしりと止める。

 その凛々しい姿はさながら戦乙女を描いた宗教画のよう。


「ハッ、調子が戻ってきたじゃねえか。あやとりにおはじきだぁ? 随分とじじむさいガキだったんだな」

「ははは、まったくだよ。玩具なんてほとんど買ってもらえなかったし、テレビゲームなんてもってのほか。スマートフォンを持てたのも高校になってからだよ。今どき信じられるかい?」

「へっ、サラブレッドかと思えばとんだ箱入りじゃねえか。こんな不良と仲良くくっちゃべってたらパパに怒られるんじゃねーの?」

「実際、怒られるだろうね。私も染めてみたいんだけどなあ」

「あン? 染めてえんだったらいい美容院を紹介してやるぜ。学割で安くしてくれらぁ」

「それ、美容院で染めてたんだ。すごく綺麗に染まってると思ってたけど」


 気がつけば口数が増えていた。会話の端々に笑いも交じっている。


「だけどよお、てめえのその技もなんだかんだガキの頃から習った剣術だかゴリューギだかの応用なんだろ? てめえの流派にはハルバードの技もあんのかよ?」

「だから御流儀は授けられてないんだって。そうだね、さすがにハルバードの技はないけど、槍術ならあったよ」


 剣城が歩きながらハルバードを回し、石突と穂先の連撃を見せる。

 型通りなのだろう。流れるような動きには美しささえあった。


「十文字槍を使うからね。ハルバードならかなり感覚が近い」

「なら素直に槍を使えばいいじゃねえかよ」

「聖マグダレナは西洋鎧が伝統だから。武器に決まりはないけど、さすがに十文字槍じゃちぐはぐになっちゃうかな。それに、ハルバードで槍術の技を使われたら相手が面食らうだろう?」


 そういえば、火ノ坂が剣城の動きを見て不自然さを感じると言っていた。

 それはこういうことだったのか。


「ハッ、県下最強のクセにずいぶんセコいことしてんじゃねえか。それに、ネタバレしちまったらもう通用しねえぞ」

「ふふ、私は天才じゃないからね。なんでもやるさ。でも、うっかり喋ってしまったのは確かに不覚だ。他で吹聴しないでくれよ」

「条件次第だな。そうだなあ、次に大会で当たったら負けてもらおうか」

「それはさすがに飲めないよ。君だってたいがいセコいじゃないか」

「フン、オレも天才じゃないもんでね」


 二人で声を合わせて笑う。

 キリキリが不思議そうな顔で振り返っていた。

 その先からは、騒がしいやり取りが聞こえてくる。


「OuaRAH!  また1体やっつけまシタ! これでアテクシの2体リードです!」

「ずるっ! いまのはわたしの獲物でしょ! なに足払いをかけたところに横入りしてんのよ!」

「そんなルールはありまセン! 勝ったものが勝者なのデス!」

「じゃあこっちも……ぅらぁっ!」

Quoi(クアッ)!? それはアテクシが弱らセタMinotaure(ミノトール)!」

「へへんっ、知ーらなーい。名前でも書いてあったんですかー?」

「Mmmmm……! ずるいデース!」


 鬼嶋は剣城を見て、にやりと笑う。


「天才どもには負けてられねーよなあ」

「当然だね」


 頷きあって、バイクのエンジンが高らかに吠え、剣城の鉄靴が石畳を蹴る。


「オラオラ! ハンデは終わりだ! これからはオレも参戦するぞ!」

「県下最強の意地、見せてあげるよ」


 こうして、牛頭天王狩りのペースが爆発的に加速した。

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