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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第六章 江ノ島 x 共闘 x 生しらす丼

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第36話

「ううー、やっぱりマネージャーがほしいぞ……!」

「あン? 急に何を言い出しやがる? ま、ほしいのは同感だけどよ」

「別にマネージャーじゃなくてもいいんだけど、部員はほしいね」


 部活の練習中、休憩時間に「マネージャーがほしい」とこぼしたら、全員の意見が一致した。

 場所はダンジョン内、最奥のボス部屋である。


「マネージャーがおったら、こういう粉を溶かしたスポドリもどきみたいなんだけやなく、レモンの砂糖漬けみたいなんも作ってもらえるかもしれんしなあ」


 石畳にあぐらをかくミノタウロスもうんうんと頷く。

 そのごつい手に持っているのは紙コップ。中身はわたしが分けてやったスポーツドリンクである。ペットボトルで買うと高いので、クエン酸と塩と砂糖を部室に置いて自作しているのだ。つか、文句があるなら飲むなこの野郎。


 このところは初夏の熱気も本格的になってきて、ダンジョンに潜って練習をしていると、肉体に戻ったときには汗まみれになっている。部室のエアコンは効きが悪く、うっかりすると熱中症になりかねない。その予防のため、スポドリは必須の装備だった。


 ダンジョン内で水分や塩分を補給して意味があるのか……と疑問だったが、ちゃんと効果があるらしい。プラーナの摂取によりうんたらかんたらってことらしいのだが、詳しい理屈はわからない。「不思議だね、人体!」ってことで納得しておこう。


 ともあれ、

「いや、マネージャーがほしいのはそういう理由じゃなく」

「なんや、違うんかい」

「ええっと、なんて言えばいいのかな……」

「偵察を任せられる人がいないと、大会が厳しいなって」

 わたしの言葉をキリ先輩が引き継いでくれた。


 先日の草大会で得た反省である。

 3人だけでは試合中の偵察ができず、どうしても情報戦で不利になるのだ。

 決勝の敗因は、相手の手札を知らず、まんまと奇襲にハマってしまったことが大きい。聞けば、元プロである羽々霧さんチームにも同じ全員斥候戦術(オールスカウティング)で勝利していたらしく、つまり反対ブロックの準決勝を偵察さえできていれば展開を読むことも可能だったのだ。


 ド素人だったわたしも、「ダンジョン道とは単純な腕っぷしの勝負ではない」ということをようやく理解しつつあった。いや、もちろん腕っぷしも重要だ。重要なのだけれども、それ以上に頭脳プレーが求められる。そして頭脳プレーには、手の内の探り合いも含まれるのだと痛感していたところだった。


「部員やのうて、顧問のセンセじゃいかんのかいな?」


 おお、そうだ顧問。

 部活である以上、我がダンジョン部には顧問の先生が存在するはずではないか。

 偵察などはその人に任せてしまえばよさそうだ。


 しかし、キリ先輩が首を振る。


「うーん、難しいかなあ。うちの顧問の先生、華道部茶道部とかけもちで、ダンジョン部は名義だけって感じだから」


 なんと、そういえば入部以来会ったことがないと思ったら、うちの顧問は3部も掛け持ちしてたんか。まるで練習に顔を出さないことから察するに、3つの部活の中でもダンジョン部が一番優先順位が低いんだろう。


「むう、顧問ならもっとちゃんと見てくれればいいのに」

「いや、それはね、うーんと……ははは」

「うっ……、悪かったよ。顧問のやる気がねえのは大体オレのせいだ」


 キリ先輩が言葉を濁し、それから鬼嶋が痛いところを突かれたって感じの顔をする。

 なんで鬼嶋のせいなんだろ……と少し考え、「あっ」と思い出す。

 そういえばこいつ、部室に不良を連れ込んで占拠してたんだった。

 ほんの1~2ヵ月前までそんな状態だったのだ。

 顧問だってまともに関わりたいとは思えないだろう。


「せやったら、元部員に戻ってきてもらったらどうなん?」

「みんな新しい部活に馴染んでるから、いまさら声をかけるのもね。それに、剣城さんのトラウマが抜けてないだろうし……」


 そうだ、本を正せば聖マグダレナとの対戦が大量退部のきっかけだったんだっけ。キリ先輩や鬼嶋は立ち直れたけれど、ほかの部員たちはそうはいくまい。怖がってるのを無理やり引っ張り出すってわけにもいかないだろう。


「……つーかさ、なんでミノタウロスと相談してんだよ?」

「「あ」」


 鬼嶋のツッコミで、ちょっと冷静になる。

 なんか流れでそうなってしまっていたが、どうしたわけかミノタウロスが壁打ち相手になっていた。いくら喋れるとはいえ、ダンジョンのモンスター(しかも人工もの)を相手に相談するってのはいかがなものなんだろう。っていうか、ミノはミノで世情に詳しすぎる。なんで顧問だの部員だの、人間世界の事情を知っているのだ。


「ゆうてワイ、精神年齢なら50年選手やからのう。おまえらよりよっぽど年上やで」

 ミノタウロスの鼻が膨らむ。たぶん得意げな表情だ。


「このイミテーションが出来てから、ぜーんぶの記憶が詰まっとるからのう。いわば桜吹雪高校ダンジョン部の最古参にして生き字引や。ダンジョンがプラーナを吸って変化するのは知っとるやろ? それは、人の想いや記憶を受け継ぐっちゅうことでもあるんや。で、それは天然もんだけやなく、人工ダンジョンでも同じや」


 そういえば、苺心(いちこ)さんに頼まれた天然ダンジョン探索のときにそんな話を聞いた気がする。ダンジョンは利用する人間の影響を受け、時代によってその様相を変えていくのだとかなんとか。ってことは、この部室のダンジョンも年月を経て徐々に変化していったのだろうか。


「てめえが発生したのは狂化のときじゃねえのかよ?」

「あれは前兆みたいなもんやのう。それより前から、ずーっとずーっと溜まっとったんやで。ま、付喪神みたいなもんだと思ったらよろしい。99年使い込んだ古物(ふるもの)が神さんになるっちゅうあれやな。ちゅうか、これが初めてってわけでもないし」


 付喪神なら神様というより妖怪の枠ではなかろうか、と思ったが、機嫌を悪くしそうなので喉まで出かけたツッコミは飲み込むことにする。


「なら、なんで関西弁なんだよ? ここは神奈川で、関西圏から来る生徒もあんまいねえだろ」

「そんなん知らんがな。しゃべるモンスターなんて、おまえらにとっては異物やゆう無意識の現れなんちゃう? 関西弁ゆうても、具体的にどこの方言なんかも怪しいインチキ関西弁やしなあ」


 インチキ関西弁の自覚まであったのか。

 このミノタウロス、メタ認知までしっかりしてやがる。


「ちゅうか、ワイの来歴なんぞなんでもええやろ。問題はマネージャーがおらんことなんちゃうんかい? そっちの方策を考えなきゃしゃーないやろ」


 そして、脱線しかけていた話題までミノタウロスに戻されてしまった。

 さすがは精神年齢50歳だ。怪しい口調で胡散臭い雰囲気になっているが、なんやかんや我々よりもずっと大人なのかもしれない。


「それはそうなんだけど、新入部員を勧誘するにしても中途半端な時期だし……」

「6月になって部活に入ってねえやつなんか、帰宅部を決め込んでるか、なんか問題があって早々に部活をやめちまったやつくらいしかいねえんじゃねえか?」

「そうなんだよねえ。贅沢は言わないけど、やる気がなさすぎるのも困るし……」


 キリ先輩が腕組みをして考え込む。

 そう、我がダンジョン部はわずか3人ながらもガチ勢なのだ。何しろ目下の目標は聖マグダレナへのリベンジで、聖マグダレナは県下最強なのである。それはつまり県大会優勝とほとんど同義で、野球部でたとえるなら「目指せ甲子園!」を本気で掲げているのと変わらない。

 そんな部活に遊び気分の人間が入ってきても、長続きしないのは想像にかたくない。


「ほなら、しゃーないなあ」


 ごほん、とミノタウロスがわざとらしく咳払いをし、視線を集めたところで偉そうに腕を組む。


「せやったら、ワイがマネージャーになったろか? 現実で動けるよう、依代(よりしろ)を用意して貰う必要があるけどな」


 なんだなんだ、ミノタウロスがいきなり、生贄を求める悪魔みたいなことを言い出したぞ?

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