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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第五章 草大会 x 元プロ x 忍者軍団

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第35話

「うぐぐぐ……、ま、負けた……」


 歯ぎしりを一旦休んで、苺が贅沢にのった一口サイズのタルトを頬張る。

 うむ、うまい。さくさくのタルトとチーズクリームのねっとりした食感のコントラストがたまらない。

 ごっくんと飲み込んで、そしてまたぎりぎりと歯ぎしりを再開する。


「っきしょー……。まさか草大会で負けるなんてよお……」


 鬼嶋が、やはり一口サイズの苺ショートをぱくり。

 苦虫でも噛み締めるように……、いや、表情が緩んだ。

 あれもおいしそうだな、次はわたしも苺ショートを食べよう。


「ごめん、作戦が読めなかったボクの責任だよ……」


 キリ先輩が、眉間にシワを寄せつつ、一口苺パフェをスプーンですくう。

 底に溜まってる半透明のはゼリーかな? ジャムかな?

 あれもあとで食べてみよう。


「おいおい、せっかく美味いもん食いに来たんだからよ。そう難しい顔をするなって」


 プチシューを生ビールで流し込んでいるのは苺心(いちこ)さんだ。

 ホテルのビュッフェに来たというのに、服装はいつもの作業着。

 ドレスコードで入店をお断りされたらどうしようかと他人事ながら不安だったが、別に問題ないらしい。あたりを見渡すと、苺心さんほどでなくてもカジュアルな格好の人が多い。

 まあ、パリッとフォーマルを決めて食べ放題に来る人もいないか。


 そう、わたしたちは駅近のホテルのレストランでデザートビュッフェを楽しんでいた。

 草ダンジョン大会準優勝の賞品が、ここの無料券だったのだ。

 なおアルコールは別料金であるので、苺心さんのビールは自腹である。

 ちなみにさっきから苺のデザートばかり食べているのは苺心さんにちなんだわけではなく、苺フェアが開催中だったからである。


「うーん、そうは言っても完全に作戦負けですからね。部長としては責任感じちゃいますよ」


 作戦負け……なんだろうか?

 シノビリンのあの作戦、全員斥候戦術(オールスカウティング)に対抗する方法がちょっと思いつかない。初手の煙玉による不意打ちについてはやりようがあったとは思うし、2セット目で解錠を失敗したのはわたしの判断ミスだけれども……。

 結局、あれを仕掛けられたら運勝負にしかならないんじゃないだろうか?


「いや、こっちも最初から全員斥候戦術(オールスカウティング)でいけばよかったんだ」


 うむ? それではやっぱりギャンブルになるのでは?

 そんな疑問に、キリ先輩がスプーンを加えたまま首を振る。


「ううん、全員がバラバラに探索したら、2~3セット目にはマップがほとんど埋まって、戦術が機能しなくなるんだよ。宝箱までのルートがわかってたら、バラバラに探す意味がないでしょ?」

「おお、なるほど!」


 財宝争奪戦において、ミニマップは全員共有だ。

 自分たちのチームが踏破したルートはもちろん、敵が通ったルートも一緒に開示される。財宝争奪戦ではマップがリセットされないから、後半になるほどマップの広範が明らかになるのだ。

 そして、宝箱の位置は光点で表示される。探索済みのルートの中に宝箱が出現したら、全員斥候戦術(オールスカウティング)の意味がなくなるというわけか。


「フォフォフォ、その通りですぞ」

「最初の1、2セットで先行できなければ成立しないギャンブル戦術ですからな」

「今回はたまたま成功してツイてましたぞ」


 突然、宇宙忍者笑いとともにおかっぱ頭の女の子たちが現れた。

 濃紺のちょっと古風なセーラー服は志乃美林(シノビリン)の制服だ。


「なぜここに……」

「優勝賞品もここの無料券でしたからなあ」

「まさかお互い試合当日に使うとは思いませんでしたがな」

「せっかくなので、ご挨拶に伺った次第ですぞ」


 なんだ、優勝賞品と準優勝賞品は一緒だったのか。


「優勝は、お土産ももらえますがな」


 と、このレストランのロゴが入った紙袋を見せてくれる。

 結構ぎっちり詰まっている感じでうらやましい。

 しばらくおやつには困りそうにないじゃないか。


「改めて、志乃美林女子学院2年、久能井(くのい)千賀(ちか)と申しますぞ」

「同じく、百賀(ももか)ですぞ」

「同じく、十賀(とおか)ですぞ」


 あれ、苗字が省略されてるってことはもしかして……。


「はい、姉妹ですぞ」


 な、なるほど、三つ子ってやつか。初めて会ったぜ。

 それにしてもそっくりだなあ。まさしくリアル分身の術である。

 こちらこそ改めまして、とキリ先輩が挨拶し、わたしと鬼嶋もそれに続く。


「ギャンブルなんてとんでもない。見事な作戦でした。プロの試合でも滅多に見ないのに……」

「フォフォフォ、プロがやるには運頼みが高すぎますからなあ」

「だからこそ、我々のような弱小には頼れる戦術ではありますが」

「兵は詭道なりとも言いますが、強ければ正攻法で戦えばいいですからなあ」

「いやいや、弱小だなんて……」


 キリ先輩が冷や汗混じりにフォローする。

 たしかに、今回の草大会でこそ優勝したが、公式大会の実績では志乃美林はふるわない。そういう相手に謙遜されると、対応に困ってしまう。


「フォフォフォ、結果としては3セットでのストレート勝ちでしたがな」

「正面から戦えば勝ち目がないのはわかっておりましたぞ」

「特に第一回戦。夜の蝶を吹き飛ばしたあの突っ張り、我々では耐えようもないですからなあ」


 あの突っ張り? ああ、捨身飼虎(しゃしんしこ)のことか。

 使える状況が限られるとは言え、発動できる状況にさえ持ち込めれば、軽量級のシノビリンに防がれるイメージはわかない。なんなら土手っ腹に穴が開くまである――いやこの想像はやめよう。食事中にするものじゃない。


 しかし、第一回戦を見ていたのかあ。

 並行で試合をしていただろうに、そんなに早く試合が終わっていたのだろうか。


「フォフォフォ、勝負は情報戦から始まりますからな。めぼしいチームは自分がチェックしておりましたぞ」


 と、そこに4人目の忍者が現れた。

 ま、またしても分身の術……。一体何人まで増えるんだ……。


久能井(くのい)一賀(いちか)と申しますぞ。四姉妹の末妹(まつまい)ですな。マネージャー的な存在として、作戦と偵察を担当しておりますぞ」


 おお、三つ子ではなく四つ子だったのか。

 しかし、選手ではなくマネージャーかあ。

 公式戦に出られる3人ぎりぎりしかいないうちからすると羨ましい限りである。

 今回にしたって、事前にシノビリンの戦い方がわかっていたら結果は変わっていたかもしれない。


 それからいくらか情報交換や雑談をして、連絡先を交換したりする。

 むむう、他校の生徒とこんな風に平和的に交流するのなんて生まれて初めてだ。

 埼玉時代は恐れられるか襲いかかられるかの二択だったからなあ。


「おい、なんでお前ちょっと涙目なんだよ?」

「いえ、こんな経験は初めてで、色々と思うところがありまして……」

「そ、そうか。よかったな」


 怪訝な顔の鬼嶋に応えたら、今度は可哀想なものを見る目をされた。

 ちくしょう、なんでこんな金髪ヤンキーにまで哀れまなければならんのだ。


「それじゃ、公式戦での対戦を楽しみにしてますね。リベンジさせてもらいますよ」

「フォフォフォ、そうですな。公式戦でも戦えるといいですなあ」


 キリ先輩の挨拶に、千賀(ちか)さん(たぶん。移動したら見分けがつかなくなった)がどこか曖昧な返事をする。ここは「当たるまで負けるなよ!」的なアレがお約束ではないのだろうか。


「残念ながら、我々はレギュラーではありませんでな」


 おおっと、これは予想外の理由だ。

 シノビリンにはもっと強力なレギュラー選手が存在するってことだろうか。

 二軍チームでこの結果とは、ますます警戒しなくては……。


「そういうわけではないのですぞ。勝ち負けの実力だけで言えば、僭越ながら志乃美林では我々が頭ひとつ抜けているという自負がありますぞ」


 ほわっつ? 実力はあるのにレギュラーじゃない?

 どういうことなんだろう?


「うちの学校にとって、ダンジョン道はあくまでも教養と精神修養ですからなあ」

「大事なのは所作の美しさなどで、勝ち負けは二の次なのですぞ」

「そういうことにしておけば、負けても格好がつきますからな」


 なるほど、志乃美林にとってダンジョン道はあくまでも乙女のたしなみってわけか。

 無理に勝ち負けに汲々とするより、最初から勝ち負けなんて度外視している姿勢であれば、大会の結果で学校の名に傷がつくこともない、と。


 なんだか高校スポーツらしからぬ大人の事情を感じてしまうなあ。


 しかし、そんなことで試合に出られないなんて理不尽じゃないか。

 他人のことながら、ちょっと頭にきてしまう。


「フォフォフォ、だからこうして野良時合に出て実力を示しているのですぞ」

「勝てそうだとなれば欲も出るでしょうからな」

「勝てるのなら、そちらの方が学校の評判にはプラスですからなあ」


 そんなことまで考えて草大会に出場していたのか。

 わたしたちはともかく、元プロを降して優勝したのだから、実績としては申し分ないだろう。


 わたしとしても、失策の汚名を返上したいし、それ以上にちゃんと噛み合った形で力比べをしてみたい。

 そんなことを思いつつ、残る時間で可能な限りのスイーツを腹に詰め込むのだった。

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