パズル2:追放者
三人は無言で互いを見つめ合った。沈黙。やがて、謎めいた微笑を浮かべていた少年が、腹を抱えて笑い出した。
「ははは! まさかまた『ポイ捨て』される奴が来るなんてな!」
「笑い事じゃねえだろ! お前ら誰だ? ここはどこなんだよ!?」俺は怒鳴り散らした。
「ごめん、ごめん……ちょっと待って」少年は笑いすぎて出た涙を拭いながら、ようやく息を整えた。
「俺らもあんたと同じさ。捨てられたんだよ。指輪も同じ『白』だ。違いと言えば、俺がここに来て一週間、あっちの飴玉好きが五日目ってことくらいかな」少年が指差した先には、もう一人の少年が立っていた。
「俺はアリオン。で、こいつはアクセルだ」アリオンはアクセルの背中をポンと叩いた。
「一週間? 五日? 俺だけじゃなかったのか……」
俺は自分の手の甲に目を落とした。異変が起きていた。そこには、白い円状の紋章がタトゥーのように刻まれている。
「何だこれ? わけが分からねえ。さっきまで学校の朝礼にいたはずなのに、気づけば変なロゴと一緒に、見知らぬ二人と絶海の孤島かよ!」
俺は砂浜を力任せに蹴り上げた。
「混乱するのも無理はねえ。異星人が突然現れて、俺たちをプレイヤーにしたデスゲームを始めた。世界を救うために殺し合い、最後の一人になれ……なんてな」アリオンが言葉を切る。「全部デタラメだ。論理的じゃねえ」
「……そうか」俺はまだ手の甲の紋章を見つめていた。「俺の名前はザカだ。高3。服を見る限り、あんたらも同い年くらいか。俺には家族がいない。こういう事態、家族がいる奴にはもっとキツいだろうな」
俺は拳を握りしめた。
「で、次の質問だ。どうすればここから出られる?」
アリオンとアクセルが顔を見合わせる。アクセルの口にある飴が、驚きでそのまま飲み込まれそうになった。
静寂。波の音だけが響く。「出られない。それが結論だ」アリオンが答えた。
「出る方法を聞く前に、まずはお前の『力』が何なのか教えてくれよ」アクセルが口を開いた。
「力? 知らねえよ、そんなの」俺は素直に答えた。
「はあ? マジかよ? 自分の能力も知らないのか? 記憶喪失か何かか?」アリオンが驚愕する。
「指輪が白く光った瞬間に、運営にキックされたんだよ」俺は手の甲の印を見せた。「あんたらは違うのか?」
「ああ、なるほどな」アリオンは納得したように頷いた。「俺たちは少しだけ『試用期間』があったんだ。白の指輪はシステムの『サンプルエラー』として、廃棄される前に少しだけ猶予が与えられる。俺はここへ放り込まれる前に、コスモスのホログラムから簡単な説明を受けた」
「説明?」
「要するに、白の指輪の力はランダムで固有のものだが、大抵は……戦闘には役に立たない。だから捨てられた。俺たちはシステムの『ゴミ』なのさ」
俺は溜息をついた。「……で、あんたらのは?」
アリオンは苦笑いした。「俺はエネルギーの貯蔵と放出だ」彼は手を掲げ、横にある岩に手のひらを向けた。「見てな」
集中すると、彼の手から薄黄色いエネルギーが放たれた。ドゴォォン! 拳大の岩が粉々に砕け散る。
「おお……!」俺は感嘆の声を上げた。
「だが欠陥がある」アリオンが続ける。「放つエネルギーは、まず貯めなきゃならない。方法は……食うことだ。とにかく食う。この島に来て一週間、撃てたのはたった三発だ。魚やヤシの実にも限りがあるからな」
俺はアクセルに視線を向けた。彼は口から飴を出した。
「僕は分子操作。でも今のところ……これだけ」彼がロリポップを見つめると、飴の形が丸から四角、そして星型へと変わっていく。「形や構造を変えられる。でも集中力がいるし、小さいものしか無理だ。さっきの岩みたいなデカいのは……まだできない」
「つまり、力はあるけどリミッターがデカすぎるってことか」俺は結論づけた。「じゃあ、なんで出られないんだ? 海があるだろ。泳ぐか筏を作れば――」
「試したさ」アリオンが即座に遮った。「この海は……異常だ。潮流が島の周囲をループしてる。浜に打ち寄せる波を見てみろ」
言われて気づく。波のパターンが……全く同じだ。完全にループしている。
「本物の海じゃないんだ」アクセルが星型の飴を齧りながら付け加えた。「シミュレーターに近い。境界線は岩場から数メートルの場所にある。そこから先は透明な壁だ。空気の分子スキャンを試したけど、密度が凄まじい。通り抜けるのは不可能だよ」
「檻の中、ってことか」
「ああ。だが……」アリオンが不敵に笑った。「一つだけ試してないことがある。今まで陸の上と海面しか調べてない。まだ『掘って』ないんだ」
「どういう意味だ?」
「この島は小さい。だが地下か海底の近くに、このシミュレーションを維持している『何か』――エネルギー源かジェネレーターがあるはずだ。それを見つけてぶっ壊せれば……」
俺は察した。「システムをハッキングできるってことか」
「正解! そこでだ、新入りのザカ。役割分担をしよう。お前とアクセルは西側の岩壁近くの砂地をスキャンしてくれ。俺はエネルギーのチャージが必要だ。まずはメシだな」
「了解。で、何食うんだ? また魚か?」
「魚は食い尽くした。貝か……」アリオンはニヤリと笑った。「カニだな。カニ肉はエネルギー効率がいいらしい」
アクセルが指を立てる。「賛成。でも、大きいのは嫌だよ。怖いから」
「へっ、ただの砂ガニだろ。たかが知れてる」アリオンは笑いながら、俺たちを崖の方へと促した。
作業開始だ。アクセルが砂に手を触れ、目を閉じる。探知しているようだ。俺はただ見守るしかなく、手持ち無沙汰だった。
「ここに空洞がある……」アクセルが突然囁いた。「深い。砂の分子構造が違う」
「よし、やれ!」後ろで枝を削って棒を作っていたアリオンが叫ぶ。「慎重に掘り起こせ!」
俺とアクセルは手で砂をかき分け始めた。深く掘るにつれ、暗くなっていく。突然、俺の指先が硬いものに触れた。そして……それが動いた。
「なんだ?」アリオンが駆け寄る。
「わからん、硬くて……」俺は息を呑んだ。「生きてる!」
三人は一歩後退した。穴の中の砂が激しく震え始める。そして、底から何かが姿を現した。
貝じゃない。小さなカニでもない。
それは……『鋏』だった。
巨大だ。俺たち三人の頭を合わせたよりも広い。甲羅の色は乾いた血のような禍々しい赤で、鋭い突起に覆われている。その鋏が砂からゆっくりと突き出され、空を掴み――バキィッ!――立ち木をへし折るような音を立てて閉じられた。
俺たちは凍りついた。
「ア、アクセル……」アリオンが唾を飲み込む。
「なに……?」
「それ……分子レベルで……デカすぎないか?」
アクセルは顔を真っ青にして頷くことしかできない。「デカい……。それに、相当お腹が空いてるみたいだ」
三メートル離れた場所から、二本目の鋏が飛び出した。
アリオンが静かに後ずさりする。「……思い出した。コスモスが言ってたんだ。『どんなゴミ捨て場にも、廃棄物専用の番人がいる』ってな」
「それって……!」俺は呻いた。
「つまり……」アリオンが脱兎のごとく背を向ける。「システムのゴミ処理係、巨大ガニだ! 逃げろ、バカ野郎!」
動き出すよりも早く、周囲の砂地が轟音を立てて爆発した。砂が舞い散る中、巨大なカニの本体がその姿を現す。柄のついた眼球が、逃げ惑う俺たち三人を冷酷に捉えていた。
「……クソったれ」俺は悪態をついた。「運営が『アンチチート』を送り込んできやがった」




