008 プリンと家出と大捜索-2
25.12.16ダンジョンボスの名前を間違えるとかいうとんでもミスを修正
同日 仮タイトルを削除
少年ファインとピコは見付かった。ファインの背中には勇者の剣があり、その剣で今まで進んで来たのだろう。俺はすぐに向かって回収する事を考えたが、立ち止まる。
「……このダンジョン、子供だけで地下三階に行けるものか?」
勇者の力があるとしても基本的にこの少年はポンコツで、全ての道を選んでから下に降りる事を選んでいるハズだ。おそらく居なくなった時点から今までを逆算してみても地下3階まで行ける程の時間はかかっていない。それが、なぜ地下3階まで降りている?考えてみて、更に奥の状況を確認する事にした。
「魔王様?どうしたんですか?」
「気になる事が出来た。向かうのはそれからにする」
地下4、5、6……と降りてみて、理由の一つに気付く。モンスターが異常に少ないのだ。ダンジョンにいるべきはずのモンスターがいない。その場合トラップが代わりに敷き詰められている事が多いのだが、そんな気配もない。俺は、このまま理由を探して確実な安全を確保すべきか、すぐに向かって勇者とピコを回収するべきかの二択を迫られる。そんな時、ソファに寝かせたルチーヌが意識を取り戻した。
「ハ……何か、幸せな夢を見ていた気が……魔王様?それと、ポコ様?何か、あったのですか……」
「起きたか?早速で悪いが彼らの居場所が分かった。だが、気になる事がある。お前の意見を聞きたい」
「その目、千里眼ですか。分かりました、私に出来る事であれば、何なりと」
俺は状況を説明した。モンスターのいるべきダンジョンにモンスターが全く居ない事、トラップの気配もなく、その場合ダンジョンに何が起こっていると考えられるかを聞いた。
「聞いた限りですと、全てのモンスターを引き連れて奥に進んだ可能性、ごく最近モンスターが倒された可能性が考えられます。ダンジョンのモンスターが倒されると復活までに数時間かかりますし、モンスターを階層を跨いで連れて行く事も可能。どちらもダンジョンに誰かが入ったという前提の話になりますが、ダンジョンの内部から変化したとは考えにくいので、この二つの可能性のどちらかだと私は考えます」
「ほう、ダンジョンに入った者を調べれば良いという事だな?」
「そうなりますね、すぐに向かわれますか?」
俺は千里眼を切ろうとして、やめた。何かがまだ足りていないような気持ち悪さがした。モンスターがいない理由、ダンジョン入口の警備、すでに地下三階まで降りた勇者達。俺は違和感の正体を探るために、更に地下深くまで千里眼による観察を進める。
「魔王様?」
「ルチーヌ、お前に共有魔法をかける」
俺はポコの記憶共有を切って、ルチーヌに記憶共有魔法を使ってやる。
「ポコさん。すまないが、もう少しそこにいてくれ」
「一体どうして……助けに行かないんですか?」
「悪いが説明が出来ない。おそらく、慎重に進めなければならない事だ」
今、俺は得体の知れない不快感に襲われている。地下を降りても降りてもモンスターがいない。たった数時間で復活するモンスター、その全てを倒しながら進んだなら、そろそろ倒されていないモンスターがいても良いはずだ。そしてもし、その全てを引き連れながら進んだのなら……ここまで引き連れて行ける強力な悪魔は居ない。俺でさえ、無理な事だ。どちらにせよ、この状況は異常だった。階を降りる毎にルチーヌの顔が段々怯えた物に変わっていく。
「魔王様、これは何が起こっているのですか?」
「地下13階。ここまでのモンスターを数時間以内に一掃する事は出来るか?」
「間違いなく無理でしょう。例え魔王様でも」
「……この先に、何かあると思うか?」
「……」
それ以上は喋らなかった。14階、15階、16階……そうして地下16階の最終フロアまで来た所に、ひとつの小屋を発見する。奥には台座の上に浮かぶ黄色の球体、ダンジョンのコアだ。あれを壊すとダンジョンの崩壊が始まる。どうやら壊されてはいないらしい。小屋の方に視点を移動させる。
「居た」
「……何を話しているか、分かるようにしておいてください」
「……ああ」
ダンジョンでは珍しい知性のあるボス。木の根を体に巻き付けたような服を着た女性……アルラウネと、一人の人間……若い男だ。その二人が何やら話をしている。俺は視点を口の動きが見えるようにして、観察を始める。人間の方はと言うと、見た事もない黒い半透明のアーマーが体を覆い、刃の部分に赤い半透明のコーティングがされた剣を持ち、足の部分に冷気のような白いモヤがあるなど、一部を挙げるだけでも魔法で重武装されている。
その後、会話が終わったようでアルラウネが恐怖に後ずさる様子を見せそのままアルラウネが塵となり、その塵の上に青いビー玉みたいな物が落ちる。剣を振る所は見えなかった。ただ、剣を振り切った後の姿だけがこの目に映っていた。青い小さな玉には見向きもせずそのまま歩いて小屋を出て行き、ダンジョンのコアを破壊すると、とんでもないスピードでダンジョンを駆け上がる。
「まずい、まずい、まずい!」
俺は慌てて勇者を見つけた時の座標に千里眼を飛ばし、勇者を探す。……居た、しゃがみこんでフードを被っているがピコも一緒だ。しかし、俺が勇者を見つけると同時に、あの人間が勇者の前に表れた。
「───」
少年に一方的に喋って、驚異的な速度で二階へ行ったのを確認して、俺は千里眼で見ている座標に分身を呼び出す。俺との意思疎通は分身との距離が遠すぎて無理だが、二人を抱えて運ぶぐらいは出来るだろう。
「……」
「?……あ、魔王だ」
「ま、魔王さまですかっ?」
勇者はもう慣れたような反応、魔王という言葉にピコが驚いて顔を上げる。花を摘むのに集中していたらしく、状況が分からずきょろきょろと見まわしているようだ。俺は二人を肩に担ぎ、走る。地面の揺れが大きくなってきた。この場所も崩落が近い。
「わ、わ!地面が怒ってます!私が摘んでしまったからでしょうか!?」
「違う、さっきの親切な人が言ってた。ここは崩れるから早く逃げた方がいいって」
「ファインくん、何で早く言ってくださらないんですかっ!」
「その花、大切なんでしょ」
「た、大切だなんて……そうです、実はこれは、お姉ちゃんへのプレゼントなのです!」
呑気に会話しているが、焦るのは俺一人で十分だ。地下2階、1階……俺は走り抜けていく。そして、ようやく出口が見え、最後の階段を走り切った直後、ダンジョンは入り口ごと崩れてしまった。二人を降ろして、辺りを見る。そこには、倒れた見張り二人。兜で隠れた顔を見ると死んではいないらしく、気絶しているだけのようだ。俺はとりあえず子供二人をまた担いで、魔王城へ戻る道を歩き出した。
本体の俺は、ドアの壊れた執務室で、ただ冷や汗を流していた。
「マジで、終わったかと思った」
「魔王様、素が出てます」
まさかダンジョンが攻略されるとは思っていなかった。それも、魔王国内のダンジョンで。俺が原因を探ろうと留まったばっかりに救助が遅れた。しかし、もし俺とあの人間が鉢合わせしていれば間違いなく戦闘になり、あの二人を諦めざるを得なかっただろう。勇者とあの人間が出会った瞬間から俺は血の気が完全に引いていた。今更ながら、俺の今まで取って来た行動が綱渡りのロープの上だった事を知る。
「ピコは、どうなったんですか?」
ポコに聞かれる。俺は今考えている全ての不安要素を頭の中から排除して、簡潔に答えた。
「無事です、今からここへ戻って来ます」
その言葉を聞いて、ポコは安心したのか力が抜けたようにその場へ座り込んだ。




